※文化的なところで捏造モリモリです※奈良家のモテ事情と同じような話です。 ※遅刻してすみません……
シカダイにとって、イベント行事というものは面倒なものだった。
夏祭りもそうだが、誕生日も輪廻祭もいかにして『シカダイガールズ』なるものから逃げられるかの戦いであって、ゆったりと当日を楽しむことができたことがアカデミーに入ってからほとんどなかった。
そして特に面倒だと思っているのが、このバレンタインなるものだった。
アカデミーに入る前は、母であるテマリやいの、それにカルイやミライなどから「修行がんばりなよ」と貰うぐらいなものという認識だった。だから、毎年この日が近づくにつれ、顔を渋くさせていく父の心情を察することはできなかったのだが、事情が変わったのは入学して一年目の時だった。
いのじんと二人で呆然と見ている先にあったのは、自分の机の上に小山になっているチョコレートの山。
なんとなく雰囲気では察していた。アカデミーに入ってから先輩のくノ一に声をかけられることもあったし、産まれたばかりの頃から一緒にいるチョウチョウとは違い、丁寧に自分を扱う同級生の女の子から、そういった雰囲気を。
ひょっとしたら、そんなこともあるかもしれない、でもまだ自分たちに色恋は早すぎるんじゃないかといった話を、同類であるいのじんとしていた直後のことだった。
それこら、ここぞとばかりに女子たちが色めき立つ雰囲気も気味が悪いと思っていたし、何より必ず貰って帰らねばならないことが面倒であった。
「断れたら一番ラクなんだけどね」
そう言うのは、目の前でアカデミーの机にうつぶせて腹を抱える親友のいのじんだ。彼は明日のことを考えるだけで、もう胃が痛いらしい。
シカダイに言わせれば「いのじんは、自分よりもモテている。だから、自分より大変そうなのだ」になるのだが、チョウチョウによればに、二人はタイプが違うだけと言う。
いのじんのことを好きになる女の子、通称『いのじんガールズ』は端正な見た目に惹かれるミーハー女子が多い。そして、告白の時にいのじんの毒舌に負けて散っていく。
それに変わってシカダイガールズとやらは、ガチ恋勢と言うらしい。何度告白しても彼女たちの心が折れないのは、本気でシカダイのことを想っているから……となるのだが、どうにもこうにもシカダイには釈然としないものがある。
告白ってのは、一回こっきりでそれから、すっぱりさっぱりで良いのじゃなかろうか、という考えがあってのことだった。
自分がするならそうすると思うし、そもそも恋などというものを自覚したことは一度もないだろうし、することもないだろうとも思っていた。
手っ取り早く告白をやめさせるには、いのじんのように冷たく突き放せば良いだけだとわかっているのだが。
「でも、母ちゃんたちが『女の子の気持ちは受け取っておくもの』って言うからな」
「仕方ないよね」
二人揃ってため息をつく。
自分たちの母親であるテマリやいのに何があったのかなど興味はないのだが、息子たちに厳しく言いつけるだけの何かがあったようだ。
シカダイが、明日のくだらない話もここまでにして、もう家に帰ろうかと提案するその前にいのじんが口を開く。
「そういえば、シカダイ。この前、後輩に告白されたんだってね。最近、年下の層が厚くなってきてない? その前も後輩だったよね」
机から顔をあげたいのじんの顔はにっこりとしていた。しかし、シカダイの背筋をぞっとさせたのは笑顔よりも、話してもいない細かなことをいのじんが知っていたことだった。
「なんでお前、それ知ってるんだよ」
「元暗部の父をもつボクの情報収集能力を舐めないで。で、ちゃんと断ったんだよね? ボクになんの報告もないってことはそういうことだよね? ボクには絶対言う約束したよね?」
「言わねーってことはそういうことだろ」
報告義務なんてなかったはずだ。
シカダイがそう思っていると、ふとこちらも気になることがあったのを思い出した。
「それよりも、お前なんてこの前、下忍の人に告られてただろ」
「その人の話はやめよう」
茶化したのはいのじんからのはずだった。だから、シカダイが、やまなか花の店先で起きたいのじんへの公開告白の件について触れた。しかし、それにいのじんは嫌そうな顔をして、また机に沈み込んでしまう。
なんかよくわかんねーけど、これがモテるんだよなァ。
自分の影で隠れているとは言え、クラスの女子が未だにいる中でこんな醜態を晒していても、いのじんがモテるという事実がシカダイには上手く飲みこめないでいると
「ねぇ、あちし今日はもう帰るからー。修行、ないよね?」
けだるげにチョウチョウが声をかけていく。
「いののおばちゃんも、ウチの母ちゃんも忙しいからないんじゃねーかなァ」
「だよねー。じゃあ、急ぐからー」
チョウチョウの向こう側でチョコレートのレシピ本やら、はち切れんばかりの紙袋を抱えた女子が軍団でそわそわとしている。クラスの女子から貰うチョコレートの味はどうやら、保証されている。
問題は明日、貰うであろう個数と今、隣で沈みきっているいのじんをどうやって、家へ帰らせるかだろうか。
シカダイは本日何度目かのため息をつくと
「母ちゃんに頼むから、ウチの胃腸薬持って帰るか?」
いのじんへと声をかけた。