馬鹿がひと川越えるまで6:ままごと

「また、明日」「あぁ、また明日」 仲良く遊んでいた、幼き時分。あの時は夕方がくれば、お互いの家に帰らなければならなかった。しかし、今ではどうだろう? シカクが真新しい引き戸を引くと、家の中から夕飯の匂いが漂ってくる。そこ…

馬鹿がひと川越えるまで5:ひと川越えるまで

 一閃。 シカクの右側の視界が紅に染まったのは、敵方が下ろした一振りのクナイだった。肌を切られた痛みよりも、右目からの視覚情報を閉ざされたことにシカクは困惑する。 しかし迷っている暇はない。鋭利な切っ先がまた己の身を捉え…

馬鹿がひと川越えるまで4:「馬鹿が」

 どこの里も大戦で疲弊しきった頃、シカクの多忙ぶりは群を抜いていた。里にいれば上役たちと今後について議論を交わし、一度任務に出れば現場を任される。 仲間が、生きるか死ぬか。 己が編み出した作戦にすべて委ねられていることに…

馬鹿がひと川越えるまで3:シカクとヨシノ

「いででででで!!」「これぐらい我慢しなさいよ!! 男でしょ!!」 高いところで括った黒髪で天を衝くヨシノの言葉は乱暴であった。しかし、右頬への処置は素早く繊細に行われていく。 畳で打ったのがまずかったのか、風呂に入った…

馬鹿がひと川越えるまで2:父と母

「奈良シカクです。滝の国方面の国境で行っていた後方支援作戦についてご報告にきました。座標は……地図上ですと、ここです。砂の忍の補給路を断つため、山に火を放ったところで成功としました。えぇ、作戦実行部隊とは合流したこの地点…

馬鹿がひと川越えるまで1:シカクの思い出

 両親から「アカデミーにもうすぐ入るんだぞ」と言われていた頃のことだ。シカクが母に言われた修行をほっぽり出し、のんびりと縁側で寝転んでいると「シカクお兄ちゃん! 遊ぼう?」 濡れ縁の端から、丸い顔がひょっこりと飛び出てき…