テマリの授乳シーンがあります
家族三人で川の字で寝るのは、いつまでだろうか。
シカマルは、向かい側でシカダイを寝かしつけているテマリの顔を薄目で見ながら思っていた。
「シカダイ、おやすみなさい、をしたろ?」
だから、早く寝ようとテマリはシカダイの丸い腹を撫でてやるが、たっぷり昼寝をしたシカダイはまだ眠くないらしい。上手いこと足を動かして、掛布団を蹴飛ばすほど暴れる。
寝たふりをしていろと言われたから、薄目を開けてじっとはしていたがシカダイの手足が腹や胸に当たり、痛い。大人の本気の拳や蹴りに比べれば軽いものだが、幼いながら的確に急所をついてくる。我慢しているとそのうちにひとしきり暴れた後に
「ぱい、ぱい」
テマリにおっぱいをねだる。卒乳は済んでいるから、今さら寝付くのに母乳など必要ないはずなのだが、今日は母親と過ごす時間が短かったからだろうか。帰ってきてから、テマリから離れたがらない。
「ダメだ。お兄ちゃんはおっぱいを飲まないんだぞ」
赤子相手にも容赦せずにぴしゃりとテマリは言うと「母ちゃんは寝るからな」とシカマルと同じく寝たフリをする。
「やーよ」
テマリの言いたいことはわからないようだが、要求が拒否されたことはわかったらしい。シカダイはテマリの方へと転がりこむと、ごそごそとテマリの胸元をあさる。そして、袂を開いてお目当てのものをさらけ出すと、迷いなくそこ噛みついた。
「歯が生えてきて痛いんだよ」
卒乳させるかどうかを話していたといたとき、テマリはそう言っていた。父親にしてみれば、子どもの乳歯は喜ばしいかぎりなのだが、まだ母乳を与えていたテマリには、辛いものだったらしい。歯が生えてきたから、というのは卒乳をするには十分な理由だった。
シカマルの目の前で、テマリは眉間に皺を寄せる。けれど、寝ているフリをやめない。ちゅうちゅうと音をたてて、母乳の出ない乳房に吸い付く息子を剥がそうともしない。シカダイは出ないことに気づいているであろうが、それでも懸命にしゃぶりついていた。数か月前までそうしていたように、手で必死に乳房を押して、母乳を吸い出そうとするがどうにもこうにも、出てこない。
もぞもぞと動いていたのだが、しばらくすると動作のすべてを止めて、規則正しく背中を動かしはじめた。
シカダイが寝たことを確認してから、テマリはそろりと身を動かしてシカダイの口から中に入っていたものを抜き出すと、袂を整える。その一連の行動をシカマルが見ていたことに気づくと、顔を赤くさせて
「見るな」
と言う。
「今さら減るもんじゃねーだろ」
授乳してるところなんて、これまで何度も見たことがあるし、何ならシカダイを授かる前からテマリの袂の向こう側を見てきている。
「お前とシカダイとでは話が違う。……明日から任務なんだから、さっさと寝ろ」
テマリはシカダイの顔が出るように自分の掛け布団をかぶせ直してやると「じゃあ、おやすみ」と目を閉じてしまう。
「おやすみ」
おそらく、シカダイが自分の部屋を持ち始めるようになるまでは、こうやって三人で並んで寝ることができるだろう。しかし、それまで自分が生きているかの確証なんてどこにもない。明日の任務でだって、死んでしまうかもしれない。
しかし、それでもいい。
父のように、不器用でも、ありったけ注いでやればいい。
テマリとシカダイの息が正しく動いているのを見て、やっとシカマルも目を閉じると、眠気に身を任せた。