ポスターを眺めていた日から日からシカマルさんは暗号部に来てくれなくなりました。
気になる異性……いえ、研究対象に会えないこともあり『尻に敷かれている』状態についての研究が進まないことと、なかなか上手いこと進まない任務に少し腹立たしさを覚えていると上司が
「何か甘いものでも食べておいで」
と甘栗甘の割引券をくださいました。
ぶっちゃけ、私もシカマルさんと同じで甘いものはあまり好きではないのですが、常日頃から目をかけてくれる上司の行為を無下にするわけにもいかないですし、ずっと持っているのも申し訳ないので帰りに甘栗甘へ行くことにしたのですが……。
まさかその店先でシカマルさんに会うことになるとは。結局、あのポスターの店に行かないと決めたようです。
ちょうど、シカマルさんを観察したいと思っていたところなので、これ幸いと通りの角からシカマルさんの後ろ姿を見ていたのですが、ただ普段と様子が違うようで。
「期間限定パフェ、売り切れてた」
「仕方ねーだろ。アンタが着くのが遅かったんだから」
「これでも任務を片付けて、砂から飛ばしてきたんだぞ?!お前が甘栗甘で期間限定のマロンパフェがあると言うから……!!」
シカマルさんと一緒にいる長身の女性に、見覚えがありませんでした。すらっとした女性は、髪を四つに結んでおり、大きな扇子を背負っています。
その女性は『売切』の文字が貼られた期間限定メニューの看板の前でシカマルさんに詰め寄ると
「明日は朝一だからな!!」
そう告げて、店の前を去ります。シカマルさんは何か言いたげでしたが、その後ろ姿をシカマルさんは慌てて追いかけると
「あーもう!わかった、わかったから。明日の朝一な。パフェはねーけど、甘栗なら用意してるから」
懐から茶色の紙袋を出して、その女性に渡しました。
「もちろん、パフェもだからな」
女性が甘栗の入った袋を受け取った瞬間、私はとあることに気づきました。袋の表面にプリントされてる文字は、シカマルさんが見ていたポスターの店の名前だったのです。
彼が言っていた、甘いものが好きな知り合いとはあの方なのでしょうか?あと、言いたいことがあるのであれば、いつも意見を述べてくださるときのように、毅然と言えばいいのにと思うのは私だけなのでしょうか。
研究が進むと思って観察をしたのですが、その結果は、不可解な点が増えただけでした。いえ、進んだのは進みました。シカマルさんでも必要以上の口論を避けて、口をつぐむことがある、と『尻に敷かれている』状態の特徴を捉えることができたので。