「いい人」であることはわかりました。では、二つ目の『優柔不断で一つひとつの決断に時間がかかる』というのはどうなのでしょう?
ぶっちゃけ、私が知ってるシカマルさんってなんでもすぱすぱと物事を決めていく印象しかないです。意見をはっきり持っていて、その意見もきちんと論拠に基づいているものですし、判断した理由もよくわかります。だから、そんな人が、時間をかけて考えているというところが想像つきません。
空になった弁当箱と雑誌を小脇に抱えて暗号部に戻ると、シカマルさんが来ていました。ちょうど、上司と何かを話し終えた後のようで雑談をしているようです。
「オレ、甘いもんあんまり好きじゃないんで」
「じゃあ酢昆布を」
「……いただくっす」
上司は机の上に置いてあった、自分のおやつである酢昆布をシカマルさんに手渡すと「仕事、がんばってね」と言います。シカマルさんは少し嬉しそうな顔をしながら
「ありがとうございます」
とお礼をして酢昆布をズボンのポケットに差し込むと、出入り口に突っ立っていた私の方を見ました。
風のある中庭にいたから髪の毛がボサボサになっているかもしれない、と急いで手ぐしで整えてみますが、指に引っかかってばかりで整えられている気がしません。思う通りすべらない髪に慌てていると、シカマルさんは私の横を素通りして部屋から出ていこうとします。私に話しかけないのは、特に用事がないからでしょう。
ですが「!」と何かに気づいて、立ち止まりました。ひょっとして、私の用事を思い出したのでしょうか。
「どうかされましたか?」
必死に前髪だけを押さえつけて、シカマルさんに声をかけますがシカマルさんは
「あぁ、いや何も」
特にそれ以上は述べず、部屋を出ていきます。そして、吸い込まれるように廊下に貼ってあったポスターのところへと行きます。『新装開店!装いも新たにメニューも一新!』と大きく書かれた、私が買った雑誌に載っていたスイーツのお店のポスターのところに。
先ほど甘いものは好きではない、とおっしゃっていたのにどういうことなんでしょう?
午後の任務までもう少しばかり時間がありましたから、私はポスターをしげしげと眺めているシカマルさんのところへ行き、声をかけました。視線の先はどうやら、新しく追加されるメニューのようです。
「気になるものがあるんですか?」
「別に。だけど、知り合いに甘いもんがすげー好きな人がいっから。手土産売ってそうなら、試そうかと思ってただけだ」
「ぶっちゃけ、好物だったらなんでも喜ばれません?」
「そうだといいんだけどなァ。舌が肥えてくると、めんどくせーんだ。おっ、甘栗売ってる」
「甘栗?」
「そ。なんか買っとかなきゃ機嫌損ねた時、オレが大変だからな」
誰かへの手土産を見つけられてシカマルさんは嬉しそうにしていましたが、すぐに「新しい店のよくわからねー味より甘栗甘の期間限定パフェの方が好みか?それとも、この前の栗まんじゅうの方がいいか?」などとぶつぶつ小言を言い始めました。