お風呂上がりに部屋に戻ってみれば、カルイがボクのベッドの上に寝転んでスマートフォンをいじっていた。入る前からこうだったから、多分ずっといじってたんだろう。ボクとのトークにもライフを回復するような要請を送ってくることもある、今ハマってるゲームでもやってるのかな?と思ったけど
「あーーーチクショウ!!」
カルイは枕にスマートフォンを叩きつけると「あの野郎!!」と友人であるオモイへの愚痴をつらつらと言い始める。
「どうしたの?」
ベッドの前に座って、部屋に常備してあるガルビーの袋を開けながら尋ねると
「オモイに相談事してたら、全然話おわんねーの!」
カルイは枕に顔を埋めて言う。
「相談?何か悩みでもあるの?」
「いやー、次お前がこっちに来る時にウマい店教えろ、って聞いたらいっぱい送ってくんの!」
ほらとカルイはトーク画面を見せてくれる。すすっと指を下に動かせばカルイの罵詈雑言の間に、オモイから大量にご飯屋さんのサイトが送られてきていた。和食、イタリアン、フレンチと種類も様々だ。
「いいじゃん。そっちはおいしいご飯が食べれるところがいっぱいあるんだね」
こことか美味しそう、と「ナンがおいしい!」と銘打たれたカレー屋さんを出せば
「そこ、めっちゃウマいんだけどさぁ、量が少ねーんだよ」
後、ここも少ないし、ここも、とカルイは次々にオモイから送られてきたお店はボクに向いていない、と言う。
「チョウジが満足できそうな店がねーの」
ため息をついて、液晶の下の丸いボタンを押して閉じてしまうとカルイはボクの肩に顔を乗せる。
「ごはん屋さんもいいけど、そっちの観光名所とか行こうよ。そこで買い食いいっぱいするの。昔、できなかったからやりたいんだけど、ダメかな?」
「いいけど……。お前、腹一杯になんの?」
「ボクはご飯よりも、カルイが居たらそれでいいからね」
床の上に置いていたボクのスマートフォンを取り上げて「ほら、こことか」とお城のサイトを見せると、カルイは
「そこ、団子屋さんが有名だぞ。あと、蕎麦とか」
消したばかりのそれをまた点灯させて、写真を見せてくれた。こしあんがのったお団子に、三段に積まれた漆器の中にちょこんと座っている蕎麦……。
「どれも美味しそうだね。他には何があるのかな」
「あ、そーいやここに、あのコーヒーの店とかあるぞ!」
「じゃあ、そこで期間限定のやつ買おうかな。来月はピーナッツだっけ?」
「そうそう。海が近いから、海岸で飲もう!」
カルイが見せてくれた、夕暮れのオレンジが、暗いブルーの海に溶けていく写真はとても綺麗だった。
「今度会えるのが楽しみになってきた」
そう伝えると、カルイは嬉しそうに「アタシも」と言ってくれた。