ガラスの自動ドアが私たちを認識して開けてくれると、天井の高いエントランスが私たちを出迎えてくれた。中には、たくさんの人があっちこっちを行き交っていてどう歩いていけばわからないぐらい。どうしたら良いか戸惑っているとナルトくんが私の手をとって、どんどん進んでいく。
連れてきてくれたのは、このショッピングモールの地図が書いてある場所だった。カラフルに、整然に、お店を区分けして書いてあるからすごくわかりやすい。
だけど。
「どこ行く? ヒナタの行きたいとこ行くってばよ」
「うーん。私は……ない、かなぁ」
手を繋いだままナルトくんは地図を見ながら「うーん」と唸る。ナルトくんがここに来ることを決めてくれたけど、どこに行こうかなんて全然決めていなかった。決めていなかった?それはちょっと違う。決められなかった、と言った方が正しい。
ナルトくんは、私の行きたいところと言ってくれるけれど、私は一緒にお出かけできるだけでうれしかったから、どこでも良いと思っていた。一応調べておこうと思ってこのモールに入っているお店を調べてみたりしたけれど、ナルトくんが好きそうなお店は見つからない。ナルトくんが好きなラーメンのお店も、ジャージが売っているようなお店も。
「ナルトくんは?」
私が聞き返すと、ナルトくんは
「特にねぇかな。じゃあ、適当にブラブラするってばよ!」
にかっと笑う。その笑顔は今日も、まぶしい。
ナルトくんはくるりと体の向きを変え、私の手を引いてくれる。私がそれに着いて行く形で案内板から離れると、カーペットが敷かれた通路を歩いて行く。
いくつものお店の前を通り過ぎて、ガラス越しに何があるのか見ていると私の足がふいに立ち止まる。森をイメージしたウィンドウの中には、いくつもの動物をモチーフにした腕時計が並んでいて、その中の一つが特に目を引いた。
「どうしたんだってばよ?ヒナタ」
突然止まった私にナルトくんが声をかけてくれる。
「あ、ううん。かわいいな、って」
端っこに置いてある、時計板がキツネの形をした腕時計を指差すとナルトくんは「それが?」と聞く。
「うん。とっても、かわいい」
この目が、とまでは言えなかった。盤面にはめ込まれている石が、ナルトくんの目と同じ青色だから気になった、とは恥ずかしくて言えない。
ナルトくんは「ふーん」と返事をして、私の指先にある腕時計をしげしげと眺めていた。