こんなつもりじゃなかったのになぁ。
いのは、心の中でつぶやくと目の前で剣幕な雰囲気を醸し出しているサクラとサスケを見つめた。たまにはWデートをしよう、と年間パスポートを持っている夢の国のテーマパークに来るのをサクラと予定を立てたまではいい。サクラと、Wデートの当日はどこを回ろうか考えるのも楽しかったし「どうせなら双子コーデにしよう」とわざわざ新しい服を買いに行ったのもよかった。
だけど、こんなことになるなんて聞いてなかったわよ?
親友カップルと行くデートは最高になるはずだったのに。いのは今朝、丁寧にグロスを塗った唇を噛むと苦々しげに目の前の二人を見つめた。
簡単に言ってしまえば、サクラとサスケがアトラクションの待ち時間にケンカを始めたのだ。朝に、駅で集合した時からサスケは、ずっと不機嫌そうだったのだが、テーマパークに入園した後もずっとそのままだったから、ついにサクラが痺れを切らして
「サスケくん、楽しくないの?」
と聞けば
「まぁ」
歯切れ悪くサスケが返事をした。そこから、二人の空気はずっと悪い。いのがキャラクターの形をしたバケットにはいったポップコーンを買おうと誘ってもサクラは「いい」と断るし、サイがサスケに「サクラと写真を撮ろうか?」と申し出ても首を横に振る。
聞いちゃうサクラもバカだし、サスケくんもはっきり言っちゃうのもバカよ!
楽しみにしていたデートを「バカ」と罵った二人に雰囲気をぶち壊しにされたことを、いのがぷりぷりと怒り始めると隣に立っていたサイが
「まぁまぁ、とりあえずポップコーン食べなよ。まだあるよ」
首から下げている、水色のゾウの形をしたバケットを差し出す。
「ありがとう」
キャラメルがたっぷりとかかっている一粒をとりだして、口に放り込むと甘い味がいっぱいに広がっていき、多少の怒りは収まる。が、
「はー。もうほんと、なんなのかしら」
痰飲は下げられなかった。紫色の大きなリボンのついたカチューシャをいじりつつ、サクラと色違いで買ったスニーカーでトントンと地面を叩いていると
「まぁ、あの二人の問題だからね。待つしかないと思うけど」
穏やかに言い、ポップコーンを口に投げる。それにつられて、いのもまた一粒取り出す。
「とりあえず、ボクらだけでも楽しもうよ。楽しみだったんでしょ? 今日」
サクラとサスケの向こう側の人が動き出すのを見て、サイはバケットの蓋を閉じる。そして
「夢の国ではプリンセスのご機嫌はとらないといけないのにね」
のんびりといのに向かって、バケットの代わりに自分の手を差し出した。