今日、何回目だ?
シカマルはテマリの熱っぽい唇から離れると、ベッドの上で、テマリの足に自分の足を絡ませながら思った。スボン越しにわかるはっきりとした筋肉の付きが、雑誌の中のようなただの女であることを意識させない。
しかし、自分の腕の中を覗けば、そこで頬を染めているのは、間違いなく、あのテマリだ。
シカマルが思っていたよりも、事態はややこしいことではなかった。むしろ、頭を働かせすぎて自縛していただけだった。その事実に気づき、恥ずかしさで部屋に帰ろうとするシカマルをテマリは捕まえると
「婚前交渉するとカンクロウや我愛羅に怒られるからダメだが、添い寝ぐらいなら良いだろう?」
と頬を染めて言うから、そのままベッドの上に縺れ込んだ。
本当なら、この先に進もうかと思っていたんだよな。オレ。
テマリと距離を詰めて、同じベッドを共有しているだけで胸が熱くなって仕方ないのだから、ヨシノからの手紙も、テマリの弟たちの言葉も今、歯止めをきかせてくれるのはありがたかった。少し、クールダウンする時間が必要だ。
けれど、テマリの柔らかさに対して沸き起こる欲があるのも確かだった。
せめて、とシカマルはテマリの腰を引いて自分に近づけてもう一度0cmの距離を求めると、テマリはそれに応えてくれる。部屋は暖房で乾燥しているのに、唇は潤ったままだ。
シカマルはきゅっとテマリを抱きしめて、じっくりと暖かみを感じていたのだかふと、思い出す。
「なぁ、アンタからまだ直接聞いてないんだけど」
「何を?」
「しらばっくれるのか?」
シカマルはテマリの脇腹に手を這わせるとこちょこちょとくすぐり始める。すると、テマリはそのくすぐりに我慢できないのか、笑い出す。
「あはっ!あははっ!ちょっ!」
脇腹が案外、弱いなんて初めて知ったのはついさっき。
逃げようとするテマリを、シカマルは逃がさない。むしろ、普段見せてくれることのない表情におもしろくなって、くすぐり続けていると胸をドンドンと強く叩かれる。
「ダメ!!だって!!」
何が?
とは聞き返さない。シカマルが手の動きを止めるとテマリははぁはぁと荒い息混じりに
「……好き」
小さく呟く。
「もっかい」
「は?!」
「もっかい」
シカマルが、離れたテマリの体にずいと近づき、顔も寄せるとテマリは顔を真っ赤にしながら
「す……き……」
また、小さく言う。
ガキだなんだとシカマルはよく言われるが、テマリとて変わらない。たった二文字すら、引き出すのにここまでかかる。
可愛らしく感じて、シカマルは言葉の代わりに距離を詰めると、0cmの場所を唇から徐々に首筋へと下ろしていく。
「ばっ……ダメだって」
テマリはささやかな抵抗見せるが、シカマルがその腕を捕まえてしまえば何の問題もない。ちゅっちゅとわざと音をたてながら、白い首の線をなぞっていくと、襟口から見えている鎖骨にたどり着く。
骨の形を確かめるかのようにシカマルが舐め回すと
「んぅ」
テマリがくぐもった、よろこびの声をあげる。するとシカマルはそれに反応して、鎖骨を覆う皮膚に甘く噛み付き、吸い上げる。行動の意味は、ガキなりに深く、理解しているつもりだ。
「んん!」
テマリから我慢しきれない声が漏れ出すのを聞きながら、最後に優しくもう一度、自分がつけた歯型の通りに舐めてから顔をあげると、瞳を潤ませたテマリが恨めしそうに、シカマルを見ている。
「お前、意外と独占欲強いのか?」
「そうかもな」
しばらくはまだこの距離でいい。
シカマルはそう思いながら、またテマリを抱き寄せて、口付ける。
これ以上、進んだらこの人に何するかわかんねーわ。
0cm。
これはまだ、シカマルがギリギリ自我を保っていられる距離だが、これ以上離れるのも危険な距離だと認識している距離だ。これ以上、近づくとどうなってしまうのか、わかっているから近づかない。
シャツの裾、めくっちまわないように気をつけねーと。
シカマルは頭の中でヨシノからの手紙と我愛羅の顔を反芻し、なんとかテマリの肌に直に触れたがる体の意思を拒んでいた。