任務報告書って、書くのめんどくせーなァ。
受け取ったばかりの添付しなければならない資料を捲りながら、任務帰りで薄汚れたシカマルは火影邸の廊下を歩いていた。要人の護衛とは言われたものの、つまるところは移動中に暇を持て余す老人の相手をさせられただけだ。
護衛の「ご」の字ぐらいの最低限の仕事はしたが……。
どうまとめたものか、とシカマルが頭を捻っていると突然、かたわらの窓がガタガタと激しく揺れ始める。自然的なものではない、人工的なものであることは明らかだった。
なんだなんだ、と文字でびっしり埋まっている資料から顔をあげるとそこには、意外性No.1と誉れ高い、あのナルトだ。
サクラから逃げてここまでやってきたのかなぜかはわからないが、血相が変わっているナルトは無理やり、窓をこじ開けるとシカマルの前に立ちはだかる。
そして、肩をぐわしと掴んで揺さぶると、とんでもない事実を口にした。
「シカマル!聞いたか?!テマリ、結婚するんだってばよ!」
え?あの人が結婚?
シカマルの目の前が、一瞬で黒に切り替わる。しかし、木の葉の策士として名高い父親譲りの頭は、勝手に神経回路を繋いで、テマリが結婚する事実をすんなりと受け入れていた。
結婚適齢期。口は悪いが、黙ってりゃ綺麗。忍という仕事への理解は十二分。家事能力はシミのない衣服に、お菓子がさくっと作れる程度はある。金銭感覚もまとも。そりゃ、結婚したいって男も現れるだろうし、条件が良い男がいたらあの人も行き遅れないうちに、結婚するよなァ。
しかし、シカマルが納得しているわけではなかった。事実、頭に近い顔は、いつもの通りすまし顔をキープできているが、膝は震えが止められない。誰にも言わず、密かに思い描いていた今後のプランがすべて崩れたからだ。
ここまで……か。あばよ、テマリ。
シカマルは心の中でつぶやくと、目をぎゅうとつむり、持っていた資料を握りしめた。