シカマルがかっこ悪いプロポーズするだけ!【2/4】

 ナルトから、テマリの結婚の噂を聞いてシカマルが呆然としているうちに、気づけば同期の男たちが顔を並べる飲み会へと連れてこられていた。そこでは、口うるさい女子の顔は見当たらない。
 廊下が近いテーブルの端でシカマルは、ぼーっと座り込んで天板をずっと眺めていたのだが、目の前に大皿の料理が続々と並べられてくると、さすがに腹が空いてきて、多少、自分が置かれている状況を理解し始めてきていた。
 テマリの結婚、失くさないようにベストの内側にしまいこんだ資料、今日の飲み会の目的と、メンバー……。
 ゴトンゴトンと、水滴をまとわせたジョッキが机の上に置かれるとそれを、シカマルと同じく廊下側の席を陣取ったシノが順々に奥の方へと回していく。いつもならそこは、チョウジの特等席なのだが今日に限って、シカマルと入れ替わる形で日帰りの任務に行ってしまったらしい。

 なんでこういう時に限って、お前は任務に行っちまうんだよ。チョウジ……。

 シノに手渡されたジョッキを持って、ため息をつくとナルトが立ち上がって、机に向かっている面々に向かって音頭を取る。

「乾杯!シカマル、任務おつかれってばよ!」

 ナルトはニコニコしながら、ビールの入ったジョッキを頭上に掲げる。一応、名目としては「シカマルが長期任務から帰還したお祝い」となっているらしい。けれど、シカマルは心の中で毒づく。

 おいおいおい。任務お疲れ会だと思ってるのお前だけだぞ。お前の隣のサイを見ろ。今まで見たことないぐらい、イイ笑顔でオレのことを見てんぞ。お前らんとこが順調にいってるからって、自慢してくんじゃねーよ。

 だから、思わず

「おつかれって何が?任務が?あの人のこと?」

 そう言いたくなったが、ここで変に自分がでしゃばっても話がややこしくなるだけだ。適当に「ありがとな」と言って、適当に料理でもつまんでいればいい。
 シカマルはナルトの音頭に合わせた後、キンキンに冷やされたビールを乾いた喉に、流し込んだ。
 木の葉では18歳で酒が飲めるようになる。普段の料理に酒を飲むようになったのはいい。が、いまだにこの苦味には慣れない。
 奥歯に染み込む苦味をごまかしたくて、すぐに手元の箸を取り上げて、目の前のなんこつの唐揚げをつまみ上げて放り込むと、ビールで流し込む。ビールは好きではないが、また頭が勝手に動く前に、アルコールで誤魔化してしまいたかった。
 早く次の酒を飲むために、ジョッキの中の空にしようとヤケになっていると

「ドンマイ!シカマル!」

 シカマルの隣に座っていたキバが、シカマルに寄りかけてくる。キバもナルト同様に勉強のできないアホのはずなのだが、ナルトと違うのはこういった恋愛事情にある程度は明るいことだろう。今日の飲み会の真の目的に気づいている。

 やっぱりお前か、キバ。お前が先陣を切ってオレをえぐりに来るだなんて想定済みなんだよ!

「うるせぇ、キバ。お前はタマキにとっとと告白しろよ」

 最初の一口でだいぶ出来上がってるキバをシカマルは押しのけると、持っていたジョッキを傾けて、一気に飲み干す。炭酸の感覚と、喉に張り付く苦味が、今日はいっそう気持ち悪く感じる。

「は?!タマキがこっち向いてくんねーのが悪いんだ!こんないい男なのになぁ!オレ!」

 明るくてもやっぱり根っこの部分はアホなのだ。キバに、最近ご執心のタマキの話題をふってやればそのまま、まだビールが大量に残っているジョッキを片手にうだうだと、戦果を語る。

「この前はよ、タマキが『あのカバン、かわいい』って言うから買ってやろうと思ったんだけどよ!猫柄だったんだぜ!それ!オレの前で出すか?!猫の話題!!」

「あー、そりゃ大変だったなァ」

 シカマルは感情を一切こめずに返事をすると、この場で傷を抉りにきそうなもう一人をチラリと見る。

「で、サクラちゃんがさぁ〜!」

「君、ほんとに気づいてないの?サクラに嫌われてるんだよ」

 にっこりと笑いながらも、さらりとひどいことを言っているサイはキバと同じく、一杯目のビールでできあがってる、ナルトに絡まれているようだった。この調子だと、ナルトの粘着気味なつきまといにしばらくは、つき合わされるだろう。
 ただ、問題があるとしたら。

「オレは熱燗を頼むが、シカマル、お前は何を頼む?」

 目の前で、シカマル同様にジョッキを空けたシノが問題だった。豪快な筆文字で書かれたメニュー表を見ているシノとは、込み入った話などしたことがないから、どういう話が出てくるかわかったものではない。飲み会の席では大抵、キバの聞き役している印象だ。けれど、恋愛だとかに興味がないわけではなく、真剣にキバの話にうなづき、アドバイスをしているような存在、とはシカマルは認識していた。だから、下手に刺激をすれば、シカマル自身が無傷では済まされないのはわかりきっていることだった。

「オレも熱燗で頼むわ」

 とりあえず、次のアルコールをシノに頼むと、シノは廊下を歩いてきた店員を止めて

「ジャンボで。おちょこは二つ」

酒の追加を頼む。そしてシノは、手元の小皿に手が届く範囲内の料理を盛ると、静かに口に運び始める。
 シカマルはじっと見つめて、どう出たものかと黙っていると、シノが口火を切る。

「シカマル、今日は好きなだけ飲め。オレたちが奢る」

 あれ、オレ、気を使われてる?

「お待たせしましたー!」

 ドンッと目の前に置かれたのは、通常ではあまり見ない徳利。それにおちょこが二つ。

「すみません、追加でもう一本これと同じものを」

 シノはおちょこに徳利から酒を注ぐと、シカマルに差し出す。おちょこから薄っすらと上がる湯気は、鼻を刺すような匂いがした。

「飲まなければ、やってられないこともあるだろう」

 シカマルはシノからおちょこを受け取ると、ぐいっと一杯目を飲み干した。

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