諸注意
※<身体欠損><強姦>の表現あり
タイトル通りのような話です。
どこかにある、人を家具やペットにしてもOKな世界です。
すみません… 性癖に抗えなくなりました。
今日も疲れた。
シカマルは、小銭と定期しか入っていないポケットをジャラジャラ揺らして、住んでいるマンションの廊下を歩いていく。並んだドアの向こうから人の気配はするから、まだ安心していられるがあと一時間も遅ければ、背筋に冷たいものを感じながら歩かなければならなかっただろう。夏だからとホラー映画を見すぎたのかもしれない。
革靴の底が灰色のコンクリートに当たり、カツンカツンと音を立てる。壁は厚いから怒られることはないが、背後に何かがいたらどうしようかと漠然と考えた。手すりの向こう側には、日付を越えても光っているネオンの光がチラつく。
地元を出て、就職したまではよかった。
都会はいろいろと便利なところで、いつだって欲しいものが、簡単に手に入る。インターネットで蔓延している通販サイトを使えば、画面を数回タップするだけで欲しいものが一時間以内にが届くし、寝てしまいそうな時は日付や時間の指定もできる。
それで、生活に必要なものがすべて買えた。わざわざ休日を潰して、買い物に出なくていい。
だから、めんどうくさがりのシカマルからすれば、都会の方が向いていた。
というわけでは、なかった。幸福度のグラフがあるのであれば、それは日に日に下がってきている。
それもこれも就職した会社が悪かったことだ。
働いた分の給料が手に入る。しかし、拘束される時間が長い。朝の九時に出社しても、帰宅はいつも深夜になる。都会の利点は、自由になれる時間との引き換えだった。
シカマルは廊下の一番端にある、角部屋に着くとポケットの中からブランドもののキーケースを取り出して、その中の一本をドアノブに差し込んだ。このキーケースをくれた彼女とは、とっくの昔に別れてしまっていた。
いつか彼女をこっちに呼ぶ日がきたら。
そのために、この1DKの部屋を選んだ。けれど、それは叶わなかった。貴重な休日は、溜め込んだ家事や会社の付き合いで溶けて、消えてしまう。彼女とはこちらに来て一年後に、別れてしまった。
「ただいま」
シカマルが明かりのついていない室内に向かって声を投げかける。実家でそうしろと言われたから癖になっていた。この部屋には誰もいない。けれど、足元から返事がくる。
「おかえり」
女の声だ。
「またアンタ、そんなとこで寝てたのか? ちゃんとベッドがあんだから、そこで寝ろよ」
シカマルは革靴から足を抜くと何事もなかったかのように、暗い玄関に転がっているものと話をする。手探りで壁のスイッチを探り当て、シカマルがパチンと廊下の電灯を点けると、手足を切られた、全裸の女が、玄関マットの上で、腹を見せて、寝ていた。
「そろそろ帰ってくるかと思って」
「はいはい。今日もお勤めご苦労さん」
シカマルが、剥き出しになっている彼女の腹を撫でてやると、彼女は嬉しそう笑う。
それはどこかの動画サイトで見るような、犬や猫の出迎えと変わらない。彼女は、シカマルがいないと生きられない存在だ。
戯れに、横に広がった大振りな乳房の先端をぎゅうと捻ると
「バカ。ちゃんと手洗いとうがいを済ませてからだ。それに風呂も」
まるで自分がシカマルの母親かのように怒る。三歳年上の彼女は、いつも口やかましい。
「今日は一発抜いてから、寝るんだよ」
「汚いやつとだなんて、イヤだ」
脱いだ上着とカバンを床の上に置いて、シカマルは、短い四肢を必死に動かして抵抗する彼女を抱き上げた。怪我をしないよう、手術痕の残る手足にかけているカバーの生地が、シカマルの頬をこする。
「テマリ、暴れんなって。落ちたら病院行きだぞ」
「それもイヤ!」
ワガママばかり言う彼女に、辟易としていた。しかし、そう育てたのは自分の責任だ。
テマリは、シカマルが気まぐれで買った家具ペットだった。
家具ペットと言うが、使い方は何でもいい。一番多い使われ方が名前になっただけである。テーブルやイスのような家具として使っても、愛玩目的のペットとして使っても、恋人のように扱っても。
自分にとって都合の良い、物。だいたいの家具ペットは、そのために産まれた時から育て上げられて、訓練されている。逃げるための手足をもがれ、自分でどうすることもできない、物だ。
これはスマートフォンと同じで、流行り物だった。
特にシカマルの同じ、独身の男女の間で流行っている。新しく恋人を作る暇もない、多忙な人たちの間で。
最初は気にもしなかった。スマートフォンだって、持つのは遅かった。けれど彼女にフラれたその日に、シカマルの足は自然と家具ペットが売っている店へと向いていた。そして、そこで買ったのが、今自分の腕の中でもがき続けている、テマリだった。
シカマルは明かりもつけずに部屋の奥にある、自分のベッドまで向かうと、そこにテマリを置いた。出迎えに来る寸前までここで寝ていたのか、表面に温かみが残っている。
「またこっちで寝てたのか。……寝るなつったろ」
「だって、お前がなかなか帰ってこないから……」
テマリはバタつかせていたものをおとなしくさせる。怒られてシュンとしている姿は、実家で飼っていた猫を思い出させる。
「今日は洗濯物だって、集めてない。……それならいいんだろ?」
シカマルが犬猫を選ばなかったのは、寂しがって粗相された時の手間を考えたからだった。部屋の中で暴れられても困る。家に帰ってきて、汚された場所の掃除をするのは、めんどうだ。
家具ペットであるテマリは、粗相こそはしなかった。決められたところできちんとする。そのかわり、シカマルのベッドで寝たがった。寝るだけならまだシカマルの許せる範囲だったが、許せないのは、シカマルのベッドの上に、シカマルの汚れた洗濯物を集めて、巣に似た何かを作りたがることだった。
「まぁ、そうだけど……でも、帰りは遅くなるって、前から言ってるだろ」
シカマルは、切られた跡が薄く残っているテマリの腹に手を添えた。
家具ペットは、物だ。だから、生殖のための器官はいらない。
横に一本入っている筋は、中にいくら出しても問題がない証拠であり、男たちがこぞって女の家具ペットを欲しがった理由でもある。それはシカマルも同じだ。
ベルトに手をかけると、スラックスとパンツを一気に下ろして、大きくなり始めた男根を握った。そして目を瞑って、扱き始める。
女の形をしていても、テマリには欲情できなかった。
世間での扱いがそうであるように、シカマルから見れば彼女もただの物だ。家に帰れば出迎えてくれるペットで、金のかかるオナホール。
瞼の裏に浮かべるのは、最近見たアダルトビデオだった。
「ちょ、ちょっとシカマル」
「うっせ、黙っとけ」
ベッドの上の裸の女が、おいしそうに男のものを頬張り、騎乗位で責め立てる。言葉責めが上手い女優を選んだだけあって、スピーカーから流れる淫語に興奮した。
同じ家にいるテマリに、遠慮なんてしない。
テマリが見たいと言っていたホラー映画が突然、肌色になってもテマリにはどうすることもできないことだ。テレビに写った肌色の乱舞にテマリはぎょっとし、不平を漏らす。しかし、シークバーが右に行けばいくほど、シカマルの隣で股を濡らす。だからわざと、そうすることもあった。テマリの股についているホールをセットで使うために。
完全には勃ち上がらなかったものの、眠気に負け、シカマルは剥き出しになっている、薄い毛で覆われた秘所に、鈴口を当てた。何もしていないそこは、挿れるのには向いていない。
「シカマル、待って。まだ、ダメ」
テマリは抵抗するが、しきれない。必要な手足は、買った時からついていない。
「いいだろ、別に。オレ、もうねみーんだよ」
シカマルは、嫌がるテマリを押さえつけると、無理やり秘裂の中に差し込んだ。
「きゃあッ!」
薄っすらと湿気を帯びたそこは、まだシカマルを受け入れられるほど濡れてはいない。柔らかくなった肉壁に包まれるのも良いが、硬い肉壁で絞り上げられるのも良い。
「あー……いい……」
「痛い! イヤ、イヤ……! 抜いて! なんでも、なんでもするから!」
「なんでもするってーなら、このままでもいいだろ?」
シカマルは腰を打ちつける始めた。ホールの入り口から、奥へ。貫通しないから、一番奥まで行けば、ゴツゴツとした部分がシカマルの亀頭に当たる。
「シカマル、イヤッ! 痛いッ! 痛いから……ッ!」
テマリが腰をくねらせて嫌がっても、掴まえてしまえばいい。
「うぅ……シカマル、シカマル……」
すすり泣きながら、やめろと乞う姿を見ても、シカマルはなんとも思わなかった。
そうは言っても、テマリに愛着はある。自分の好きなように支える存在としての。
シカマルは激しい抽送を繰り返すと、やがて滑りが良くなっていることに気づいた。肉壁から自動で出てくるローションのおかげだ。
今日はこだわりなんて、なかった。ストレス発散のために、すっきりしたいだけ。
乱暴に出し入れを繰り返していると、鋭い感覚が腰に走った。すると昂ぶっていた興奮が一気に下がっていき、代わりに眠気が顔を出す。
「はぁ……」
シカマルは、ぐずぐず鼻を鳴らしているテマリの上に覆いかぶさると、涙でしっとりとしている頬に、自分の頬を当てて、擦った。
正直に言うと、オナホールを買ったほうがずっと、安い。生き物の維持費はバカにならないからだ。それでもテマリがここにいるのは、人肌への恋しさを紛らわすためだった。
相手がいないのだし、見つける暇もないのだから、しょうがない。
それが自分の心のどこかに残っている良心への言い訳だった。
「次、休みあったら、ゆっくり可愛がってやっから」
「……それだけじゃ、やだ」
ワガママを言うテマリの髪を、宥めるように撫でつける。けれどその手つきは、動物を撫でるそれと変わらない。シカマルは、欲を散らしてくれるペットとして、テマリを可愛がっていた。
「今度、新しいカバー買ってやっから」
「……」
ない手足の先につけるカバーは、床板や地面から傷つくのを防ぐために着けてやらなければならない。家具ペットに必需品だと言える。だから、色んな種類がある。おやつと値段が変わらない安っぽいものから、シカマルのキーケースと同じブランドの、高級なものまで。
家具ペットのアクセサリーは他にも色々売っているが、シカマルがカバー以外に持っているのは、病院に連れて行く時に着せる服だけ。
もちろん最初は、テマリはもっと服を欲しがった。「恥ずかしいから」と家具ペットに似つかわしくない台詞を吐いて。
けれど、シカマルが洗い物を増やすのをめんどうくさがったため、その申し出はなかったことにした。その代わり、カバーだけは、テマリの自由に、好きなものを買ってやるとテマリと約束をした。
「……前に見た、紫のやつ、覚えてるか? 鈴のついてるやつ」
「アレか? アレなら緑の方が似合うって言ったろ」
腰を浮かせて、テマリの中からしぼみ始めた男根を抜いた。中の掃除は、明日の自分に任せてしまおうと思いながら。
それからパンツだけ履き直すと、スラックスと着ていたシャツを脱いでベッドの外に放り投げてしまった。身軽な格好で寝るための準備をしているとテマリが
「シカマル、下りる。自分のところで寝る」
うごうごとベッドの上で腹ばいに蠢動する。これ以上シカマルに何かをされるのはごめんだ、といった風であった。しかしシカマルはテマリを捕まえると
「今日はここでいい」
体を抱き寄せて、掛け布団を被った。それから眠気に抗いながら、胴を丹念に触っていった。毎日の健康チェックは欠かしてはならない。しかし手のひらに凹凸の激しい感触がする。
テマリの肉付きはもともと良くはない方だ。が、ここ最近では一層骨が目立つようになっていた。
自動給餌器から出される餌を、ちゃんと食べていないのだろうか?
「アンタ、また餌食ってねーだろ」
「だってアレ、美味くない」
「おやつも置いてるだろ。そっちだけでもいいから、ちゃんと食えって。ちゃんと太らねーと長生きできねーぞ」
シカマルが揉む、胸と尻ばかり大きくなっていって、腰回りには肉がついていない。ぽっちゃりしている方がシカマルの好みなのだが、まだまだほど遠い。
指で摘めるぐらいあればいいのに、と思いながら恥骨の出方を心配していると、テマリが
「……こんな姿で?」
そう呟いた。シカマルの手がぴたっと止まる。
「……」
どういう経緯があったか詳しくはシカマルは知らない。しかしテマリは他の、元から家具ペットとして育てられたものとは違うかったようだった。
家具として十分に働けるように筋肉がつけられていたわけでもないし、ペットとして可愛らしさを振りまける演技ができるわけもない。
だから、テマリと初めて会った時、テマリは醜女ばかりがいる狭いゲージの中に入れられ、売れ残っていた。
つけられた値段に不相応な見た目をしていせいで、他の醜女にゲージの隅に追いやられ、虐められていた。ひそひそとした罵詈雑言を延々と聞かされ続け、わざと糞尿を浴びせられて。
最初は他の物を買おうとした。もっと良い家具ペットを。男を誘う調教がされていて、いつ何時でもホールとして使える温かいペットを。
しかしあまりにも虐められていたものだから、つい見入ってしまい、ついには店員を捕まえて話を聞いていた。
「問題児ですよ」
テマリを買った店の店員は、ため息をつきながらそう言った。初心者ならあまり勧められない、とも。
口と気が強いばかりで家具ペットとしては何もできないから、見た目を気に入って買ったとしても、返す人が多かった、と。
けれどシカマルはテマリのために財布の中に入っていた諭吉を三枚、トレーの上に置いた。
テマリに食いつくシカマルに店員が「もしテマリを買うのなら…」と話の途中に出してくれた『いつでも返品可能』という他の家具ペットにはない特典を、気に入ったからだった。
実際にテマリを家に置いてからは、その返品回数の多さに納得した。
持ち主に向かって唾を吐く、口答えをする、懐かない。
家具ペットが本来行うことを、彼女は何一つしなかった、
その上、どうにもテマリは、元は、人間だったようかにシカマルの前で振る舞うことが多かった。
服を欲しがったり、体を執拗に触られるのを嫌がったり、トイレをシカマルの前ですることを恥ずかしがったり。おおよそ、他の家具ペットはしないような行動だ。
それに、手足がまだあったころのことを思い出してか、無い手足を見て「痛い、痛い」と延々と泣くこともあった。
最初はすぐに返品しようとした。家具ペットのある生活を思い描けていなかったから、イメージを膨らませられたらそれで終わりで良いと。
しかし今では「良い買い物をした」と思っていた。
それは、シカマルが初めてテマリの中に入った時のことだった。
テマリが受け入れてくれたことにも驚いたが、繋がった部分から血が出たことにシカマルはさらに目を丸くさせた。そして、涙を浮かばせた目で彼女は、自分が処女であることを震え声でシカマルに伝えてくれた。
何もできないのなら、自分の好みに当てはまるように育て上げればいい、そう思っていたし、そうやって接してきた。
「……人間に、戻りてぇか?」
シカマルは初めて、テマリに尋ねた。
今ではすっかりシカマルのペットとして、テマリは存在している。独身生活に彩りを添える、大事な。でももしも、と考えることもある。
「まだ、思うこともある。……けど」
「けど?」
「お前が可愛がってくれるなら、このままでいい」
だから、するならちゃんと準備してから…。
テマリはシカマルの腕の中でぷりぷりと怒り出す。
シカマルには、テマリがどちら側の立場にいるのかわからない。人間か、家具ペットか。なりきれない彼女が一番かわいそうだと思う。けれど、テマリがそれでいいというのなら。
「はいはい、わかった。わかったから。ちゃんと次からはするなら。もう寝るぞ。明日、ちゃんと起こしてくれよな」
「本当にわかったのか? ……仕方ないなぁ。任せろ、昼間にたっぷり寝ておいたからな」
テマリは嬉しそうに言うと「おやすみ」とシカマルの腕にキスをする。
「あぁ、おやすみ」
もし彼女に手と足があれば、今、抱いてくれたのだろうか?
そんなことを思いながら、シカマルはゆっくりと意識を手放していった。