コマンド、エンカウントのシカマル視点
大人の事情と書いて、仕様と読みます。
「バカ。お前がしてたみたいに寝る間も惜しんでゲームされてたら、こっちもたまったもんじゃないんだよ」
「まぁまぁ、そんな怒るなって」
どうどうと宥めようとするとオレの向かい側にいる人は、白く濁ったお湯を掬い上げてまた、オレの顔に当てる。お湯をかけられ、手で顔を拭うのは今晩で二度目だ。どうやら、テマリは機嫌が悪いらしい。どうしたものか。テマリも、外でオレたちの会話を聞いていただろう息子へのフォローも。
「テマリ」
「シカダイには、お前から言ってくれ。ゲームのことも含めて」
わかりやすい気配には、優秀だったくノ一も気づいていたらしい。距離を置いた分、自分もそうだったように、感覚が鈍ってしまったんじゃないかと思っていたが、子ども一人の気配はさすがにまだ読める。それに、実戦から離れたその分、強かさを身につけたようで。これ幸いと面倒ごとをオレに押し付けてくる。
「めんどくせーなァ」
湯中の中でテマリの足を探り当てると、太ももを弄る。内腿を揉むと、きゅっとテマリは足を閉めた。そして手を掴むと、
「母親が言うより、同性の父親の方が納得できることもあるだろ」
そう言い、張ったふくらはぎを掴ませた。そんなとこを触るよりもマッサージをしろ、だと。
「わかったよ。だけどアンタ、ちゃんと席外してくれよ」
「わかってるよ」
指示通りふくらはぎの一番張ったところを指で押してやると、テマリはふぅーと満足そうに息を吐きながら、湯船にもたれかかった。
*****
シカダイが来ることを警戒してか、テマリはやらしいことを一つもさせてくれなかった。いつもなら軽く前戯を済ませてから、布団の中に入るのだが、今日はその代わりに湯船の中で丹念にマッサージをさせられた。
久方ぶりに期待していたスキンシップが不完全燃焼に終わり、なんとも言えない気持ちで先に湯から上がると出されていた浴衣を羽織る。帯を締めていると、テマリが風呂場で汗を流している音の中に、二階でまだ愚息が起きている気配が混じる。
どうせ起きてるなら、テマリが言っていたことも含め、夜遅くまで起きていることを口頭で注意をしようかとも思ったが、それよりも効く薬がある。
オレと交代で脱衣所に上がってきたテマリに
「先上がってるぞ」
と声をかけると、足早に階段へと急ぐ。そして、一呼吸おいた後に、故意に音を立てて階段を上った。それから、シカダイの部屋には立ち寄らずにまっすぐ寝室に入ると、ベッドに腰掛けて、後から続いてくるであろうテマリを待つ。
昔、オヤジにやられて飛び上がった、いたずらのような、警告だ。寝ているであろう家族を起こさないために音もなく動くことは、忍だから造作もないことなのだが、それが音を立て動くとなると、引っかかりが大きいほど心に響く。
オレも昔、オヤジと母ちゃんが夜中に寝室で何かやってるのを目撃しそうになった時に、やられた。「子どもは早く寝ろ」の合図。それをまさか、自分がすることになるとは。
オヤジも考えたもんだよなァ。
シカダイにも、あの時のオレと同じように伝わっているだろう。
「どうした」
「いや、そんなこともあったと思ってなァ」
湯上りで赤らめている、テマリの手を握ると引き込んでそのままベッドの上に寝転がった。
シカダイが寝たら、父ちゃんと母ちゃんは一旦休み。一緒に風呂に入って、一緒に寝る。そうやって作ってきた、たまの夫婦の時間。あの時はよくわからなかったが、なるほど、確かにゆっくり過ごしたい。母であり、妻であり、「一緒がいい」とオレが選んだ女と。
腕の中のテマリを組み敷くと、緩めに結んである帯に手をかけた。