奈良家のバレインタイン事情4:シカマルの場合

※文化的なところで捏造モリモリです
※奈良家のモテ事情と同じような話です。
※遅刻してすみません……

※アニオリキャラが出ています

「今年もこの時期が来たってばよ」
「……あぁ、そうだな」
 朝陽が差し込む執務室で神妙な面持ちをしているのは木の葉の里の七代目火影とその相談役だった。
 会議の資料づくりのためにこの部屋にこもり始めて数日たっていた。今度の会議には、ナルトが苦手とする大名がいたからそれの対策を兼ねてだったのだが。
 二人を憂鬱にさせているのは、徹夜明けだったということもあるが、それよりものは今日が二月十四日だという事実であった。
「バレンタイン。今日は何があっても帰らせてもらうってばよ」
「どうした。珍しい」
「ひまわりが『影分身でもいいからお父さんにあげたいなぁ』って言ってるって……ヒナタが……」
「あぁ」
 娘がいないシカマルにはわからないが、娘から貰うバレンタインのチョコレートは父親にとって大きな意味があるらしい。シカマルもそうさせてやりたい、とは思うが今は目の前の会議の資料だ。
「で、ナルト。ここは覚えたか? またオレが答えると『データも覚えていない火影が、真っ当に里の運営を行えているとは思えないのですが』って言われんぞ」
「わかってるってばよ……」
 会議がセッション形式であれば、シカマルが上手いこと運べるのだがナルトに発表をさせろと向こうからの指示になると、そうもいかない。
「ここの相関関係と、それからこっちの水準の上昇と」
「そっちは覚えたんだけどよぉ、こっちが……」
「そっちのグラフはもう、覚えなくて良い」
 火の国の大名以下のお偉い方は、年度末の報告に厭らしい手を使ってきた。わざと、ナルトにさせるように言ってきたのだ。
 大戦の英雄というレッテルは政治面では大いに役立つが、逆手に取るものももちろん、いる。本来ならば、それを回避させるのがシカマルの仕事のうちの一つなのだが。
「まぁ、これがこなせたら、しばらくは向こうも何も言ってこねーよ」
「だといいんだけどなァ」
 ナルトは、資料をこれ以上見たくないという顔をしながら、捲っていく。大方は覚えた。後は、細かいところをもっと、といきたいが……。
 ふーとシカマルは息を吐くと、ナルトのに告げる。
「まぁ、今日ぐらいはいいんじゃねーか。そのかわり、また明日から缶詰だけどな」
「やったってばよ! サンキュー! シカマル!」
 ぱぁと顔を明るくさせたナルトを見て、これでよかったのだとシカマルは自分に言い聞かせる。少しばかり、自分の教え方の手順をどこか変えれば、まだ、間に合うはずだ。
 ナルトの集中力を上げたところで、執務室の外からドサドサと何かがドアの前に落ちる音がして、ナルトがそれに反応する。
「あ、バレンタインってことは」
「チョコだろうな。まぁ、いつも通りでいいんだろう?」
「あぁ、頼むってばよ」
 シカマルは『いつも通り』を実行する前に、ナルトに
「じゃあ、こことこことここ。オレが帰ってくる前にまとめてみろ」
 と指示を出すと、呻くナルトの声を背にして、隣接している自分の執務室の中へと入っていった。
 ナルトの集中力をここで削がれるのは、シカマルにとっても得策ではない。特に今は「帰れる」という餌を吊り下げて、なんとかモチベーションを上げてもらっている。ここでチョコが来るたびに切られるのは、困るのだ。
「ユリト、今年やるの忘れてたろ。そこらへんに空きダンボールあるか?」
 中にいた長年の部下に声をかけると、栄養ドリンクの瓶を咥えているところであった。つい数時間前に「寝ろ」と言って、多少は寝かせられたおかげかクマは薄いが、それでも疲労困憊であることは隠せない。
「えぇ、ありますけど、どうしたんですか?」
 飲んでいた栄養ドリンクを口から外して、この時期の空きダンボールの使い方を尋ねてくる程度には、頭が回っていないらしい。毎年、やっているはずなのだが。日付の感覚が狂い始めている証なのだろうか。
 『いつも通り』も、本来なら昨晩のうちにユリトがやっているものだと思っていたのだが、そのチェックを怠った自分も、それなりに疲れてきているのかもしれない。
「いつもの、プレゼントの返却用ボックス、至急に作ってくれ。七代目とあと、オレの分も。あと、張り紙もだな。プレゼント禁止ってやつ」
「え!? チョコ、貰わないんですか?!」
 目を開いて、驚くユリトの感覚はどうや、狂ってはいないらしいが、寝起きで頭が働いていないだけだったようだ。
「一個もらい始めたらキリがねぇ」
 それに、黄金色のお菓子なんて入っていた日には七代目の沽券に関わる。
 というのは建前で、本音で言えば二人とも「めんどくせー」のだ。
 甘いものはそれほど好きではないし例え、好物を贈られたとしても心が弾まない。贈り主が自分の大事な人である場合は別だが。
「毎年思うんですけど」
 ユリトは空きダンボールにマジックで『返却します』とデカデカと書きながら、言う。
「おい、それ以上は」
 シカマルは止めようとするが、ユリトはするりと言ってしまう。
「お二方とも、奥様から貰えるチョコだけで十分、とかなんでそんなクサいこと言えるんですか?」
「……うるせぇ。お前も結婚したらわかる。嫁ってのは、他の女から貰うと嫌がんだよ」
 これも建前だ。ナルトはヒナタとひまわりから、シカマルはテマリから。貰えればそれで良いからだ。
 それに言うほど、テマリが嫌がっているわけでもない。
「まぁ、相談役というのはそういう役職だからな」
 と一定の理解を示してくれている。むしろ、役職に見合った良いチョコレートが食べられると両頬に、高いチョコレートを詰め込んで喜んでいた時期もあるのだが……。
「バレンタインが過ぎると『太るよなぁ』って話をヒナタとしたんだ」
 と聞かされてからナルトと話し合い、受け取らない方向に変更した。
 自分たちとしても有象無象に大量のチョコレートを押し付けられるよりも、たった数粒のチョコレートの方が大事なわけだから、特に抵抗もなかった。
「結婚って大変ですねー」
 ユリトがうんざりするように言うのを聞いて、シカマルは
「家で待ってる人がいる、っつうのは悪くはないけどな」
 とだけフォローすると、作ったばかりの張り紙とダンボールを手に廊下へと出て行った。

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