奈良家のバレインタイン事情3:テマリの場合

文化的なところで捏造モリモリです
※奈良家のモテ事情と同じような話です。
※遅刻してすみません……

 二月十四日は、テマリにとって普段とは少し違った意味を持つ日であった。
 いつもより少しだけ早起きをして一番最初にするのは、郵便受けを覗くこと。中には束になったカードが仕舞いこまれているから、それを大事に抱きしめながら家の中へ入ってく。
 食卓の上に置かれたチョコレートケーキの横にカードの束を置くと、 はやる気持ちを抑えて、手早く一人分の朝食を作る。そして、おおかたを作り終えるとこの日ばかりは、カンクロウが送ってくれたコーヒー豆を荒く砕いて、熱めのお湯で淹れる。
 チョコレートケーキは、家族のために焼いたものではない。昼にいのとカルイの誕生を祝うために焼いた。後で飾り付けを担当してくれているいののところへ行って、家でのランチを楽しんでからのデザート。
 側にあるのは、カップケーキはあまりの食材で焼いたシカダイへのものだ。誰に似たかわからないが、今年も息子は大量にチョコレートを渡されて帰ってくるだろうから、朝食の後のデザートぐらいでちょうど良い。
「明日は早く、アカデミーに行く」
 と言っていたシカダイが起きてくるまでまだ時間はある。
 テマリはコーヒーを楽しみながら、カードをまとめている紐をほどくと一枚一枚、じっくりと眺めていく。
 木の葉へ来てからも毎年、砂から届けてくれる人がいる。
 バレンタインにチョコレートを送る習慣は、暑い砂ではなった。気温に負けて、チョコレートが溶けてしまうこらだ。その代わり、一言を添えたカードを送り合う。
 昔は簡素な紙面だったが、ここ数年は飛び出す仕掛けが施してあるものがあったり、家族の写真が写っているものもあったりと種類は様々になってきた。
 文言も年を追うごとに変わっていく。
 砂にいたころは『好きです』や『また今度食事にでも』といった文言が女性からも男性からも送られてきていたが、最近は『結婚しました』『二人目が産まれました』といった近況報告が、届く。もちろん、受け取る数自体は年々少なくなっていっている。
 飽きたから、ということもあるかもしれないし、送り主がいなくなったからということもあるかもしれない。
 しかし、テマリは「それはそれで仕方がない」と思っていた。
 ないものはないし、それをどうこうできる権限は自分にはない。送ってくれる人がいるし、自分にも送る相手がいる。
 それで十分だった。
 コーヒーを啜りながら手にとっていると、黒ツチやダルイといった昔の連合の面々からも相談役夫人となったテマリの元へ、きちんと別の名義で家族に宛ててカードが送られてきていた。
 息災であることはテレビやシカマルから聞かされて知っていたが、実際に本人たちが綴った文字を見られる方が安心できる。
『そのうち茶でも飲みに行こう 黒ツチ』
「お前、どうやって飲みに行くつもりなんだ」
『この前のメールの通り、結婚を考えています ダルイ』
「お、ついにか。上手くいくといいな」
『……皆様のご健勝をお祈りします 長十郎』
「お前は堅っ苦しいなぁ」
 どうせ後で届いたことを知らせるメールを送るのに、ついすぐに返事をしてしまう。
 昔のように簡単に話せる間柄でなくなった彼らだからこそ、してしまうのかもしれない。
 テマリはそう、納得していた。
 一番最後に残した一際、上等な深紅のカードには文言すらない。故郷の砂隠れの景色を背景に、男が二人と、子どもが三人いる写真が貼られているだけだ。
「おお、みんな大きくなった」
 三人の子どもたちを見て、テマリはつぶやく。
 弟たちは結婚しなかった。その代わりに養子を貰い、大切に育てているとカンクロウから聞いている。
「テマリとはまた違うから、我愛羅がヨド相手にテンパることもあるんだぜ」
 そんなことを話していた。
 男が二人と女が一人。たまたまらしいが、小さなころを思い出さずにはいられない。
 昔は我愛羅にカードなんて考えもしなかった。そもそもそんな文化があること自体、我愛羅は知らなかったはずだ。しかし、こうやって送り合えるようになった。
「私たちのも喜んでくれるといいんだが」
 シカダイとシカマルと、それにテマリの三人で撮った写真が貼られた、兄弟と連合の友人たちにだけ向けた特別なカード。それが無事に届けられていることを、願いながらテマリはコーヒーを飲みきると、ごとりとカップを机の上に置いて、カードを片付け始める。
 シカダイには朝食を出して、いののところへ行って、それから……。
 そうやって今日の予定をふりかえっていると、一つのことを思い出した。
「あ、シカマルの分」
 ここのところ家に帰ってきていない夫には何が良いのか。今回の篭りはいつ終わるかが定かではなかったから、用意をしていなかった。
 ここ数日、顔すらロクに見ていない。
 来なくて良いと言われたから、火影邸にも行っていないが……。
「まぁ、そのうち帰ってきた時にでもいいか」
 テマリはあっさりそう結論付けると、カードの束を脇に避けた。
 

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