生家からの帰り道は、雨が降っていた。
大きめの傘を一本借りて家族三人その下に収まったのだが、シカマルの肩幅とテマリが肩から下げている荷物が幅をとる。
「シカダイとアンタが濡れなきゃいいから。荷物が濡れんのもめんどくせーだろ?」
傘の持ち手であるテマリにそう伝えるが
「カバンは防水性だ。この程度の雨、問題ない。それより、お前が濡れる方が面倒だ」
テマリは傘をシカマルの方へと傾ける。家事をする本人が言うのだから、とシカマルはそれ以上は口を閉じた。底冷えする雨に似て、二人の間にひやりとした空気が流れる。寝付いたシカダイを起こさないためにも、しばらく無言で歩いていたのだがテマリが突然、
「お前はこのしきたりを知っていたのか?」
そう聞いてきた。
「いや、知らねぇな」
シカマルが覚えていないのは当然だった。
うんと小さなころのころに訪れたきりだったし、森の最奥は一族のものにも立入を禁止していたはずだ。そもそも、鹿ですら行かない場所だったから行く必要がなかった、とも言える。
そんな場所に、一歳になったばかりの息子を連れて行くのは骨が折れる。が、シカマルもシカクのようにいついなくなるのかは、わからない。その気が毛頭なくても、いかねばならない時がくるのがこの生業だ。
「……めんどくせーし、明日にでも行ってくる」
テマリに告げると、
「その方がいい」と頷いた。そして
「ちょうど良かったじゃないか。最近、シカダイに構ってやれてなかっただろ? 二人で遠足に行ってきたらいい。私もその間に、溜まった家事も消化したいしな」
続けて、今日は帰ったら明日の準備をして、それから明日は物置の掃除と、そろそろ泊まりに来るであろう弟のために客室の布団を干して……と家事の算段をし始める。それから
「あぁ! 最近、歩きたがるから、いっぱい歩かせてやってくれ」
シカマルの肩で、ぷすぷすと寝息をたてているシカダイを見ながら、言った。