シカマルさんとテマリさんのお二人と別れた後、家に帰ってすぐに雑誌を捨てました。シカマルさんは尻に敷かれているというより、自分から尻に敷かれにいってるという結論を出させてくれたあたり、感謝はしているのですが私にはもう必要のないものですし。ぶっちゃけ、無駄なものを持っていると、スペースの無駄です。
けれど、最後までわからなかったのはお二人が結局、恋愛状態にいるのかつまり、サクラさんやいのさんが言うところの「お付き合い」をしているかどうかです。
テマリさんが木の葉から去った後、シカマルさんは以前と変わらず暗号部に足を運ぶようになりました。前にシカクさんが持ってきた巻物の中身を、上司と解読するためです。巻物を見て
「オヤジめ」
とシカマルさんは零していましたが上司は
「暗号は場数を踏んで、法則を見つけ出すスピードを高めることが大事だから。ウチのシホと同じようにぱっと見ただけでわかるようになるとはいかなくても、シカクの息子であるシカマルなら、読めなくても法則ぐらいわかるようになる」
そう宥めて、一緒に解読を行っていました。二人のやり取りは、昔私が言われたものと同じでした。暗号はとにかく既存の法則を覚えて、場数を踏め。難しいものになると、既存の法則から応用したものが出てくるから、その礎となっている法則を見つけ出せ。
暗号は、人が考えているものですから、人工物です。生物ではないので、人が考えている以上のことは起こり得ません。ロジックに忠実に作られたものが、そこにあるだけです。今は解けないものでも、いつかは解けます。
上司はもう解き終えたようで笑顔で、巻物と向かい合って唸っているシカマルさんを見ています。そこで、私に突然声がかかりました。
「シホ、シカマルが困っているようだから、一緒に解法を探してあげて。中身も見ていいよ」
「はい」
シカマルさんの背後から中身を覗かせてもらうと、見慣れた暗号の文書がずらっと並んでいるだけ。
「これ、16進数に変換した後に2進数に変換してますね。で、おそらく象形文字への置換も行っているので見た目以上にややこしくなってるだけです。ぶっちゃけ、そんな難しくないです」
「これがわかるのか?この絵が?」
「絵?」
「えっ、これって絵じゃないのか?」
「人の手書き文字ですよ。前提条件を疑ってください。こっちに辞書があるので参考にしてください」
私はシカマルさん腕を掴むと、辞書の並んでいる棚へと連れて行きました。乱雑に積まれてはいるのでわかりにくいことこの上ないです。
「この辺りに臙脂色の表紙が破れかけている本があるので、それを探してください」
「わかった」
本をどけている音が響くだけなのが何かおかしく感じて、私はシカマルさんに例の件について聞くことにしました。
「シカマルさんって、テマリさんと付き合ってるんですか?」
「オレとあの人はそんなんじゃねーよ。付き合ってねぇ」
サクラさんやいのさんに言ったことと同じことを私に言います。ここまでは予測通り。だったら、別の手で攻めるだけです。
「じゃあ、シカマルさんってぶっちゃけ、どんな子がタイプなのか聞いてもいいですか?」
「オレのタイプ?なんで急にそんなことを」
「この前、テマリさんといたところを見て気になったんです。尻に敷かれてるみたいに見えましたから、何か弱みを握られているかとも思ったんですけど、そうでもないみたいなんで。……私とそういった話をするのはダメですか?」
恋だとか愛だとか。
結局、暗号部にいた私には無縁なものなのだとつくづく思いました。しかし、興味を持つことぐらいは女の子である私に許されてもいいものなのだということはわかりました。
シカマルさんは少し、溜めた後に
「……普通の女だよ」
そう言いました。でも、まだ未定義の言葉がありますね。
「『普通』って私とシカマルさんで異なりますよね?シカマルさん個人が思う『普通』の定義をお願いします。」
「あーえっと……そうだな。口が悪くない、手が出てこない、気性も荒くない女、だな」
「他には?」
「うーん……風遁で吹っ飛ばされなきゃなんでもいい」
子どもでもできる簡単なパズルだった。
シカマルさんが異性として前提に置いているのは、テマリさんだ。そして、テマリさん以外と言い切ってしまうほど意識もしている。テマリさんの方がどう思っているかデータ不足で判断できませんが、夕食などの個人の時間を他里の男性のためにわざわざ割くということは、少なくとも好意的にはシカマルさんを見ているはず。
「ぶっちゃけ、テマリさん以外になりません?それ」
「そうか?」
「そうですよ。風遁まで言い切ってしまったら、テマリさん以外に居ないでしょう」
ホコリを被った本をシカマルさんに渡すと、ありがとうと彼は受け取って、話題から逃げるように早速ページを捲ります。
「これで暗号はわかりますよ」
あの暗号文の意味、ぶっちゃけ、見ただけでわかっちゃったんですよね。よく火影様が送ってくるやつなんで。でも、書いた人は違うようでした。たぶん、あれを書いた人はシカマルさんをよく知る人。
シカマルさんに読まれないように、わざと読ませないように書いたんですね。
『シカマル、砂で待つ』
待つ、の意味は私にはさっぱりわかりませんが、おそらく悪い意味ではないでしょう。
私はシカマルさんの背中を、早く早くと押した。
待ち人を待たせないで下さい。