尻に敷かれる男7

 サクラさんといのさんの話を思い出しつつ、今日こそはとまた仕事帰りに甘栗甘に向かうとやっと、割引券を使うことができました。
 しかし、中がいっぱいとのことで少し肌寒さを感じる外にあるベンチに座らされ、頼んだ三色団子が売り切れたからと苦手なあんこのかかった団子を出されるという、今日という日がつくづくツイていないことを露骨にするような出来事が立て続けに起きて、ぶっちゃけ家に帰りたくなりました。それでも、団子を頬張ってぬるいお茶を飲むと、多少の疲れは癒されるものでヒトの体の作りを恨むばかりです。
 まさか、シカマルさんに彼女と呼んでも差し支えない方がいるとは考えていませんでした。初めて対等に話をした異性を相手に恋愛をして、浮つきすぎて情報収集を怠った結果です。それに、この状態は失恋と言うべきことも頭で理解するのは難しくありません。
 不思議と涙は出ませんでした。こういった時は涙が出るものだ、とサクラさんといのさんから伺っていたので、そこ点については驚いたのですが、もともと散布図にすれば例外として処理されるべき私は、きっと恋愛でもそうなのだと考えるとすんなりと納得できたのが少し、悔しいです。
 串についていた最後の団子に噛み付いて、お茶で流し込むと、やっと家に帰れます。帰ってすぐに、雑誌を捨てることに決めました。研究を投げ出すのは好きではないのですが、意味のないものに時間を割いても仕方ありません。
 会計を済ませて、立ち上がると目の前から、都合悪く、シカマルさんとテマリさんのお二人が歩いてきました。

「で、だ。さっきの打ち合わせ」
「だから、それはすまねぇって」

 口論、ではありませんが言い合いは今日もしているようです。いつもの私ならこのまま観察を、とでも言うのでしょうが、今はシカマルさんの隣で堂々としているテマリさんを、見たくありませんでした。
 お二人に見つからないように後を去ろうとすると

「シホだ」

シカマルさんが私を見つけました。暗号部にいる私は見つけられないのに、なぜここにいる私を見つけることができたのでしょうか?テマリさんからの口撃から逃げるためですか?

「! シカマルさん」
「よっ、こんなところでどうしたんだ?」
「あ、いえ、割引券を貰ったもので」
「へぇ。甘いもん好きなんだ。前に甘味屋のポスター見てたし」

 本当に、ずるい人だと思います。私のことを見てないように見えて、ちゃあんと覚えてらっしゃる。
 私が何も答えないでいると、

「シカマルの同僚か。一緒にどうだ?」

テマリさんが私を誘います。シカマルさんと、でも今は息が詰まりそうなのにテマリさんもいるこの状況、ぶっちゃけ、やばいです。

「……遠慮しておきます」
「すまねぇ。急いでたか」
「いえ、そんなことはないんですが」
「じゃあ、行こう。人が多いと楽しいからな。木の葉の人のことも知りたいし」

 テマリさんは甘栗甘の中に先に入ってしまいます。まごついていると、シカマルさんが

「悪ぃな。あの人、強引で。オレから言っとくから、帰りたきゃ帰ってもいいぜ」

 ほんと、すまねぇ。
 私に謝ってくれました。

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