ぶっちゃけ『テマリ』という女性のことを知らなかったのは、自分の調査不足だと痛感しました。
私は確かにシカマルさんの、外での交流関係をほとんど知りません。しかし、知る手立てはなかったわけではないのです。それは火影邸によく足を運んでいるサクラさんといのさん。シカマルさんの同期のお二人です。特にいのさんはシカマルさんと同じ班だったこともあり、シカマルさんの個人情報については噂話よりも信憑性の高い話をよくご存じでした。
そんな彼女たちになぜ聞かなかったのでしょう?
シカマルさんが暗号部に来なくなってから三日。私が二人の後をつけてからも三日。
その方は突然、暗号部にやってきました。
「おーい、いるかァ?」
ドアから覗かせた顔はシカマルさんにそっくりな、方でした。しかし顔につけている二本の傷が明らかに彼ではありません。一瞬戸惑ったものの、暗号部のどなたを探しに来たのかわかりませんし、慌てて対応しようと立ち上がると
「嬢ちゃんは座ってな。今、別任務についてるんだろう?」
男性は私をもう一度座らせなおして、任務を続けろと言います。けれど、伝言を頼まれるのであれば集中力が切れてしまった今の方がいいので、動向だけは探っていました。
機密性が高いこの部屋に入るのをためらっていたのですが、上司の
「シカク、ここだ!ここ!」
の声にひかれて男性は部屋の中に入ってくると迷わず上司の机のところへ向かいました。そして、紙の山の頂点から中を覗き込むと
「そんなとこにいたのか!あいかわらず、紙に埋まってんな」
シカマルさんなら絶対に言わない、冗談を口にしました。それから懐の中から、紐でしっかりと封じられている巻物を取り出すと山の中へ差し込みます。
「綱手様からこれを暗号部にと言われてな」
上司はシカクさんよりも小さな手のひらでその巻物を受けると、しゅるしゅると紐を解く音が聞こえてきました。それから、するりと開く音がして上司は「ふむ」と唸ります。
「ありがとう。そうか。シカマルが今、別任務についているからと父親を寄こしてきたのか。どうだ、この巻物の中身を一緒に解かないか?」
「急ぎじゃねぇらしいし、それはまたウチの愚息とやってくれると助かる。オレァ、早く帰らねーといけねー用事があんだ」
「どうした?」
「元々今日は非番でよォ。母ちゃんと一緒に出かける約束してたんだがな、それを送りに来いって言うもんで」
シカクさんはたんっと地面を軽く蹴ると踵を返して、ドアの方に向かい
「じゃ、時間に遅れたらウチの母ちゃん、こえぇからよ」
後ろ手を振って部屋から出ていきました。