ほんと、よく食う男だな。
出会った時からずっと、思っていることを今さら思い直すなんてバカバカしいとわかっている。が、それでも思わずにはいられないほど、目の前の男、チョウジはその大口の中に皿の上に山盛りに積んだ料理を吸い込んでいく。
月に一回のお泊りデートをしに今月はアタシがこっちに来てみれば、デートの先はいつもと変わりなく、めし処。アタシだって女にしては食べる方だから、まぁいいと言えばいい。だけど、ホテルのバイキングだから、とチョウジが言うから「都会のホテルで食事だ!」なんて喜んだのはダメだった。
アタシが思い描いていたホテルは、テレビでやってるような女子会御用達!みたいな綺麗なホテルだったのだけれど、チョウジが連れてきてくれたのは寂れたビジネスホテル。都会にはあるものの、ビジネスホテルなだけあって内装はすごくシンプルなところ。
「カルイ、食べないの?」
白いテーブルクロスの上に置いた料理の皿に手をつけないでいると、チョウジが不安そうにアタシの方を見る。
「いや、食べっけどさぁ……」
食いっ気が第一のチョウジにおしゃれなところなんて期待しても負けだ。脳裏で雑誌で見た南国風のオシャレなカフェなんかを思い浮かべつつも、観念して手元に箸を取り上げる。最初はダイエットのことも考えて、適当に取ってきたサラダを口に運ぶ。和風ドレッシングかけてカロリー調整したサラダなんてどれでも一緒だと思っていた。でも
「んっ!これ、ウマい!」
「でしょ?」
隠し味に入っているのか、ドレッシングの中からゆずの酸っぱい風味が飛び出して食欲を刺激してくる。ダイエットのことなんか忘れて、すぐにサラダを食べ終えるとチョウジがニコニコしながら
「ここ、デザートも美味しいんだよ」
『冬限定!苺フェア』と書かれた看板の方を指差す。看板の下には、でっかい苺が載ったショートケーキや、ピンクのムースがかけられたケーキ、それにパフェなんかも置いてある。
「カルイ、苺好きでしょ?」
よくそんなこと覚えてたな。
目をパチクリさせたのはチョウジが、大きなハンバーグをバクンと飲み込んだからじゃない。あまり言った覚えのない好物を覚えていた、目の前の彼氏に、だ。
すぐに空になってしまった皿を
前に
、チョウジは立ち上がると
「ついでに取ってきてあげるよ。とりあえず、全部一個ずつでいい?」
優しく声をかけてくれる。こういういとこなんだよな。チョウジの良いとこって。
おぅ、とだけ返事すると、チョウジは「待っててね」と巨体を揺らしながら歩いて行くからアタシはその背中を見送る。その後に、自分の皿の上に載っていた、昆布だしがよくきいた大根の煮物とかを片付けていると突然、目の前に皿が置かれた。食べやすいように手前にケーキ、奥には高さのある器に入ったゼリーや小さめのパフェが綺麗に盛り付けられている。
「はい」
「さんきゅ」
自分の皿には適当な料理の山を作るクセに、アタシのために盛った皿はどこぞのカフェにも負けないぐらい丁寧に盛り付けてくれる。人は見かけによらずだと、チョウジを見ていると、これも、いつも思う。
「うまそう」
率直に自分の感想を述べると、
「でしょ?」
チョウジが満面の笑みを浮かべた。