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 シカマルはベットの上に投げ捨ててあった、寝間着代わりの長袖のシャツとズボンに身につけると、改めて気を引き締めた。
 だらしない格好に、だらしない部屋。気持ちもだらけきりそうになるが、今はそれどころではない。
 シカマルは鍵だけ持って部屋を出ると、上の階にあるテマリの部屋へと急いだ。

 階段を二段飛ばしで上りきり、廊下を見てテマリの部屋であろう場所に検討をつけようかと思ったが、そんなことをしなくてもどこがテマリの部屋かなんてことは、すぐにわかった。
 黒い部屋着に身を包んだくすんだ砂色と、また眼鏡のあの男が廊下で話しをしていたからだ。他のメンバーに気を使ってか、小さな声で話している二人の会話を、シカマルは遠くから読唇術を用いて様子を見ていた。

「テマリさん、すみません。わざわざお部屋に来てしまって」

「いや、いいんだ。まだ寝るには時間があるから」

 また、テマリは愛想笑いをする。
 そんな笑いをするぐらいであれば、得意の風遁でふっ飛ばしてやればいいのにとシカマルは思うのだが、物事はそう簡単にはいかない。

「すみません。湯上がりなようですし、すぐに帰りますね。あ、これよかったら。ウチのお茶です。温まるので飲んで下さい。あと、ゆっくりしてくださいね」

 長十郎は小さな紙袋を小脇から出してくると、テマリにそれを押し付ける。
 会議の話をしていれば、そのままシカマルも見過ごしていただろう。けれど、部屋に押しかけてまでテマリの体調を気遣う理由がシカマルにはよく理解できなかった。
 廊下を急ぎ足で歩きながら、シカマルは二人のとこへ向かう。会話を読み解くのを続けながら。

「えっ。わざわざ持ってきてくれたのか?」

「えぇ。黒ツチさんが『気になるなら』って部屋を教えてくださったので」

「あ……ありがとう。大事に飲むよ。……それほど、気にしなくてもいいぞ?」

 テマリは、困ったように受け取った瞬間、胃のムカつきがまた、シカマルを襲う。
 長十郎が五代目水影にきつく言われたであろう「女性には優しく」といった価値観は、同意できるがそれは相手を困らせてまで実行するべきではないとシカマルが考えているからだ。

「いえ、冷えは万病の元なので。この茶っ葉は普通にポットにいれるだけで構わないですから!」

 慌てて長十郎がその場を去ろうとする。が、ここはもしもの時のことを考えて、先制しておかねばならない気がした。

「何してんだ?」

 シカマルは二人の間に割って入ると、長十郎の方を見る。顔を、自分の髪と同じように青くした長十郎が慌てて

「シカマルさん、あぁ、いえ、これは」

 何か言い訳を始めようとするのを見て、シカマルは勘付いた。黒ツチから何かを吹き込まれている、と。ただただ、不快だった。
 もともと、詮索されるのは、好きではない。それが自分だけならまだしも、テマリにも行われている。
 胃のムカつきがまた、吐き気に変わる。

「さっさと部屋に帰ってもらってもいいっスか?今から、オレ、この人と会議の話の続きするんで」

 シカマルはイラ立ちを隠さないまま、長十郎にそう告げて、テマリの腕を掴むと、テマリの部屋のドアを開けて、中にテマリを押し込む。自分も中に入ると

「じゃあ、おやすみッス」

長十郎の返事も聞かずにドアを閉めた。

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