テマリが勧めてくれたちゃんこ鍋の店は、公舎の目と鼻先にあるところだった。
木の葉の定食屋と変わりない雰囲気のその店は、シカマルにとっても、テマリにとっても居心地の良い店だった。
机の真ん中に置かれた鍋に、テマリはおたまを刺しこむと鍋の中の野菜の山を切り崩して、そこの方に沈んでいた肉団子と一緒に拾い上げる。そして、とんすいには少し多めに盛った上から、たっぷりと汁をかけてやれば、ゆったりとした湯気がとんすいから湧き上がる。
テマリはそれをシカマルに寄越すと、シカマルは、さんきゅとだけ言って受け取り、一口すすった。鉄の国で作られているという味噌が大豆の芳醇な香りを漂わせて、空っぽになった体を刺激してくる。
シカマルは箸を取り上げて、肉厚な白菜を口の中にいれて噛むと、よくしみているのか歯の間から味噌の良い味が漏れ出す。
あー。あったけぇ。
冷え切った体に、ちゃんこ鍋の温かさが広がるのを実感しながら肉団子に食いついていると、同じように食べ始めたテマリが
「お前の提案、あれでよかったんだよな?」
「あぁ、助かったぜ。おかげで通った」
あいも変わらず、会議の話を始める。途中で資料を出し始めた時には、この人は正気か?とシカマルは思った。昼に、まだ不確定ではあるが、婚約した、という事実を忘れているのではないか、と。もう少し建設的な話をしても良いのではないだろうか、と思ったのがテマリがその話に触れる気がないのであれば、男としてどうするべきか。
シカマルは話題を切り出そうか否かを迷いつつ、テマリと挟んでいる鍋を自分の箸でつついて、気に入った白菜を探し出す。
これから先について、考えるべきことは山ほどある。シカマルの言葉を借りれば「めんどくせー」女の砂のテマリが、木の葉のシカマルと結婚した場合に考えられる影響は、木の葉に波風ミナト・うずまきクシナ夫妻の前例があるにしろ、時代背景が違うことからそれほど検討がつかない。後々のことも考えて、一つ一つを吟味せねばならない。
さー。どうすっかなァ。
まだ湯気立つ鍋の向こう側で、資料とにらめっこしているテマリを真正面から見ながらシカマルは頭を悩ませていた。
けれど、それも昼に送った手紙の返信によっては大きく変わってしまう。自分たちの間では良くても、親や里が何と言うか、だ。
一個ずつ確定させてから考えたほうが、効率的だな。浮つく気もねーけど、こういうことは情報集めてやんねーと。
シカマルは汁だけが残った鍋を見て、
「シメ、うどんでいいか?」
テマリに尋ねると、テマリは資料から目を離さずに「あぁ」とだけ短く返事をした。