【母ちゃんの誕生日 おまけ3】Happy Birthday Presents

『土の国の最新クレイパックセットだ ありがたく受け取れ!
アタイの誕プレ、今年もあの化粧筆で頼む 去年貰ったやつ、そろそろ毛先がダメになってきた! 黒ツチ』

『今年も無事に誕生日を迎えられたようでなによりです。メイ様が「女性は保湿が大事」だとおっしゃっていたので、水の国で流行っている保湿ケアグッズにしてみました。気に入っていただけるとうれしいです。 長十郎」

『誕生日はどーも。この前貰った鹿革の手帳、めっちゃ使ってます。雲で開発したケアスチーマー?を送ります。よかったら、感想ください。評判は悪くないですよ ダルイ』

 シーはそれぞれのメッセージカードがついた贈り物を一つずつ、丁寧に、箱の中に詰め込んでいく。
 特にダルイの贈り物は、精密機械になるから厳重に梱包しなければならない。他の荷物との間にしっかりと緩衝材を敷き詰めてから、箱の中に入れる。
 各里から荷物を集めて送るだけ、言うだけなら簡単な任務なのだが、この任務はダルイが直々にシーを指名していた。雷影としてではなく、個人としてのお願いだったのだが、荷物を集めなければならない面子も、集めた荷物を送る相手も、里のトップに近しい人たちなのだ。むしろ、雷影から直接命を下されて任務を行っている、という気概がなければ行えないことだろう。
 だから、これはシーにとって、重大な任務だった。何があっても届け主が住む、木の葉に無事に届くようにしなければならない。
 箱の中での固定が適切か判断するために、シーは口を開けたまま、箱を揺らしてみたりして、中のものが動かないことを目視で確認した。多少の揺れでは ビクともしないことに安心したが、次は箱がひっくり返った時のために上部にも緩衝材を詰めなければならないし、箱の蓋もきっちりと閉じなければならない。
 底に使った緩衝材と同じものを被せる。底の固定ならもう何度もやったから自信はあるのだが、それでも万が一を考えると確かめられずにはいられない。
 箱に耳を当てて中のものが動いてないか確認すると、それの位置を固定するために両面テープを貼ってから蓋を閉じた。
 蓋にだって、少しのズレも許さない。隙間がないことをきっちり調べ上げてから雲隠れの里で開発した超強力テープで蓋を閉じると、箱自体にも耐久を持たせるために、重なっている部分にもそのテープを貼るとようやくシーは安堵に表情を浮かべた。
 準備はできた。
 箱の上部にシーの名前で書いた伝票の台紙をとると、誰にも開けられないよう、まるで封印術で使う札を扱うかのように、恭しく蓋の真ん中にそれを貼る。
 本当は、自分の名前で出したかっただろう?ダルイ。
 ぼんやりと、伝票を見ながらシーは思った。
 この箱の中身のものは、今の忍の仕組みを作り上げた彼らから、かつて志を同じにし、生みの苦しみも完成の喜びも共有した、仲間の誕生を祝う、ただの贈り物だ。鉄の国での堅苦しい会議を何十回も何百回も重ねて、都合がつくとわかったら、街の端にある小さな居酒屋に皆んなで集まって、酒を飲み、つまみをつまみながら、未来の展望を熱く語った、仲間。しかし、その時と比べて、みんなの立場は大きく変わってしまった。
 土影、水影、雷影、火影相談役、とその夫人。
 ささやかな贈り物ですら、影を背負う彼らには、自らの名前で出すことができなくなってしまった。もし出してしまうと、収賄やそれに準ずるものだと世間から判断されるようになってしまう。ただ仲間の誕生を祝いたいだけ、にも関わらずだ。
 それを面倒だと感じるのであれば簡単な話で、やめたら良いだけのことだ。けれど、彼らは部下の名前を借りてでもやめない。
 そもそも、誕生日にプレゼントを交換しよう、なんて似合わない仲良しごっこを誰が言い出したかなんてことが、もうわからないのだ。交換する目的すらも。それぐらい不確かで、あやふやな約束ごとだから、守る義理もないはずだ。
 けれど、もう今年で何年目だろう。
 シーは書き慣れた伝票を指でなぞる。はっきりとそこには自分の自宅の住所と名前、それから『火の国 木の葉隠れの里 **町**番地*ー* 奈良テマリ 様』と大きな枠内に美しく書き上げた文字が並ぶ。ダルイが雷影になってから毎年のことだから、シーは彼らの自然と住所は覚えてしまった。
 例えそれが書面に交わしたわけではないおぼつかない約束であって、ほろよい状態の彼らが口約束で決めたことであっても、そうと決めた年から欠かさず、贈り合っている。まるで、かつて居酒屋で話した将来の希望や、一緒に過ごしたあの時間を、忘れないでおこうと言うかのように。いや、なぞりたいのかもしれない。情報伝達の技術が発展しても伝えられない、言葉にできない懐かしの思い出の夜たちを。
 シーは荷物を持ち上げると、雲隠れの里の集積場へと運んでいく。
 この荷物は、八月二十三日の朝一番に届くようにしなければならない。家族や、近くの仲間だけでなく、遠い仲間の気持ちもここにあると伝えるために。
 シーの任務は、届け主から個別に送られてくる感謝のメールが全員に届いた時、はじめて達成される。今年は何月何日に終わるだろうか?もしかしたら、十月かもしれない。次は黒ツチの誕生日が近いから。その次には、奈良シカマルの誕生日もある。
 胃が痛くなる日々が続く、とシーは大きくため息をついたが、メールが送られてくるたびに少しの口元をだらしなくするダルイのことを思い出すと、これぐらい良いかと思ってしまうのである。

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