前作:奥様の夜のお誘い?の続きです
あの、男心をくすぐりまくる下着をつけたまま、事に及んだ一件から微妙にテマリに距離を置かれているような気がしていた。いや、気がしたではなく、確実に置かれている。
抱かせてくれない。非常にわかりやすい距離の置き方だった。
他は普段と変わりなく、晩酌に付き合ってくれるし、シカダイの話や、自分が不在の時の森の話をしないわけでもないしそれに、以前と変わらない距離で隣で寝ている。だから、余計にその事実が身に染みて実感していた。別に抱けなければ、抱けないなままでも良いと言えば良い……わけでもないのだが、その前に夫婦の間に変なしこりがあることが気に食わない。
確かにエロい下着を着用していたのはテマリだ。そして、許可を出したのもテマリだ。だから、自分に非はないと思うのだが、テマリは何かが気にくわず、拒否をしている。その何かがわからない。自分が鈍いのは重々承知しや上で、いろいろ可能性を模索するがどうにもこうにも手がかりは掴めない。
抱かせてくれとは言わないが、せめて怒りだけでも解いてもらおうと、お土産で釣ってみたり、無理強いをさせたことの謝罪もしてみたが、どうアプローチしても、テマリの心を揺れ動かすことはできず、一向に怒りが解ける気配はなかった。
自然に怒りが解けるまで待とうかと思い、あまり気にしないようにと心がけてはいたが、シカマルの中では着実に悩みの種は芽生えていた。
元々はそういった行為をする時は、前もって夫婦で話し合って、いくつか決め事をしていた。息子であるシカダイに、教育上の理由も含めて、夫婦の時間を見られないように、彼が完全に寝ているであろう早朝や、アカデミーに行かせた後にできる出勤までの隙間時間に体を重ねよう、と。あとは、シカダイに聞かれてもまずくないように、わかりやすい言葉で誘わない、といったことを。
だからひょっとしたら、シカダイが起きているかもしれない時間帯にシてしまったのが不味かったのだろうかと仮説を立てて、決めた通りに誘うように心がけたが、どうしても拒否をされる。あれから一ヶ月ほど、早朝に尻を撫でると「眠い」と断られ、隙間時間に「今日の予定は?」と聞けば「今日は忙しい」と。
怒られるのを覚悟で、我慢ならず一度、寝ているテマリの浴衣の袂に手を差し込んだ時は、無言でぴしゃりと手を叩かれてしまった。
家庭のことはテマリに任せるのが最良だと思っているから、体調や家事の優先をさせたいのは山々だが、近くに極上の体があると知りつつも我慢するのにはやはり限界がある。多少の、湧き上がる欲ぐらいならば、一人でなんとかする術をいやというほど身に染みている。けれど、どう足掻いてもテマリが教えてくれた、交わることでしか満たされない充足感は得られない。
どうしたものかなァ。
食器を洗うために腕を動かすたび、微かに揺れる最近触ることすら諦めた尻を眺めながら、食後のぬるい茶を飲みつつ考える。別に、そのうちテマリの怒りがとければ、すんなりとまた元の生活に戻るのだろうが、それがいつなのかわかりかねる。そもそも、怒っていると考えて行動しているが、ここまでくると本当にそうなのかすら、怪しい。本当に「眠くて」「忙しくて」できないだけかもしれないわけで。
情報不足で判断できねぇなァ。別にストレートに、聞いてもいいんだが……。もし怒ってんなら、火に油をドバドバ注ぐようなものになるしなァ。
どういう形であれ、さらに怒らせて関係をこじらせるのは得策ではない。面倒くさいが、ここはテマリが受け入れるまで待つしかない。
ここ一ヶ月ほど何度目達したかわからない結論にもう一度達し、シカマルは空になった湯のみをコトンと机の上に置く。「ごっそさん」とつぶやき、椅子から立ち上がるとすぐに、テマリが水場を離れて洗い残しを取りに来た。
なんでもない、ただいつも通り湯のみを回収しに来ただけなのだが、袖から伸びる腕に白い液体の洗剤が若干ついているのが見えると、ドキリとしてしまう。ナニとは言わないが、自然と頭の中で連想してしまうのだ。
おいおい。オレは、エロガキなんて年齢じゃねぇぞ。
自分の短絡的な頭に驚いて、シカマルが固まっていることに気づかないテマリは、特に気にかける様子もなく水場に立つ。ちゅっと洗剤をスポンジに継ぎ出しをして、湯のみを洗う音を響かせながら。
まさかなァ。今ので、とか。
シカマルは、これ以上テマリと同じ空間に留まるのはやめた方が良いと判断し、怒られないように椅子を机の中へしまい入むと足早に台所から立ち去ろうとする。熱くなった頭を冷やすためにも、出勤時間まで森へ鹿の様子を見に行こう、家から、テマリからできるだけ離れなければ、ならない。妙な気が、完全に起き上がる前に。
台所の暖簾を持ち上げて、シカマルが出て行こうとすると、その背に突然テマリが声をかける。
「シカマル、今日は何時に出勤なんだ?」
朝から台所でグズグズしてる夫に痺れを切らしたのか、とシカマルは思ったが、その声に意外と怒気は含まれていなかった。
「あと一時間くらいしたら、家を出ようと思ってる」
体を反転させて、テマリの方をきちんと向いて質問に返事をするが、テマリはシカマルに背を向けたまま
「そう」
と水場に声を落とす。その声は、落ち着いていた。いや、どう捉えたら良いかわからない。いかんせん、テマリの表情が読めないのだから。でも、確かここ最近の朝、テマリはシカマルにお誘いされるのが嫌なのだろうか、極力自分から話しかけられるなんてことをしなかった。
ん?ひょっとして?
シカマルが思案している間に、テマリは湯のみを洗い上げて、食器カゴの中に伏せる。そして、台所から隣接している脱衣所の方へと足を向けようとするその背中に、シカマルは一か八かと声をかけた。
「なぁ、アンタの『今日の予定は?』」
二人の中で、話し合って決めた合図だ。きちんと言えば「アンタを抱きたいんスけど、ご都合いかがですか」というシカマルからの定番のお誘い。
今までを鑑みると、可能性は低い。けれど、今の様子を見ていると、今日の成功率は拒否されるようになってから、最も高いはず。高いが、根拠は薄い。だから、断られた時のためにも期待はしないでおこう、と頭では冷静に思っている。思っているが、熱い頭ではやっぱりどこか変に期待をしてしまう。ほんの少しの確率に縋りたくなるほど、テマリの柔肌に触れていないからだ。
そろそろ、起きているテマリの、衿からのぞく白い首を舐め回したいし、むっちりとしてきた尻を思う存分揉みしだきたい。
ドクッ、ドクッと鼓動がはじけるのを感じながら、シカマルはテマリの返事を待つ。
「ごっ……午前中にやりたいのは……洗濯ぐらいだな……」
くるりとこちらを向いたテマリは、顔を真っ赤にしていて。つまり、返事は。頭で結論に達する前に、ドンッと頭をどこかでぶつかるような衝撃を受ける。それは、何百回と抱かれているはずの妻が、初めての時と同じように恥ずかしがったからだろうか。いや、そんなわけない。いつだって、テマリは可愛い。
予想外の返答に頭が混乱しているのを実感しながら、シカマルは無言でテマリの元へと向かう。急な行動に大きく目を見開き、体を硬直させているテマリの前に立つと、何の前触れもなしに前から思い切り抱きしめた。テマリはシカマルの理解不明な行動にびくっと体を震わせる。それは久方ぶりとも言える抱擁だった。シカマルが、腕の中の凹凸がはっきりとした体を全身で感じていると、テマリの手がゆっくりとシカマルの首へ手を回り、すうと首の裏を撫でる。その瞬間、シカマルの頭の中でカチッとスイッチが入る音がした。
「一時間しかねぇから、今からでいいだろ?」
少し屈んで、テマリの尻に腕をかけると、勢い良く持ち上げる。そして返事も待たず、軽い足取りで階段を上がり、寝室へと向かった。
*****
ベットの足元にシカマルは深く腰掛けると、自分の足の間で膝立ちさせるようにテマリを下ろした。無理やり抱き上げたせいか、袂が乱れており、深くて色濃い谷間がはっきりと目にうつる。
今すぐ触りてぇし、しゃぶりつきてぇなァ。
そう思ったが、今回もテマリから誘ったとはいえはっきりと返事を聞かないまま、事に及んでしまい、テマリを今より怒らせるのは、最も避けたいことだ。
「なぁ、テマリ。本当に、いいか?」
シカマルが頭の上にあるテマリの顔を見上げながら尋ねた。ほんのりと頬に赤みを宿しているテマリがいる。
「嫌なら、おとなしくここまで連れられてこないよ」
テマリは、穏やかな声でそう言うと顔を近づけて、シカマルの額にちゅっとキスをする。ようやく、怒っていた何かが許されたと安堵したが、いくらか冷静さを取り戻したシカマルにはわからないことがあった。
なぜ、許してくれたのか。
「何でOKしてくれたんだ?」
尋ねながら、テマリの腰に手を回し、着物を締めている帯をゆっくりと緩める。本当は嫌ならば、ここで手を止めてくれと願いながら。しかし、テマリは自分から袂を緩め、厚めのブラで覆われた胸元を露わにして、平然と言う。
「私も悪かったと思ったからだ」
と。テマリは腰を落としてシカマルと目線を合わせると、尖っている唇に、自らの口先を優しく押し付けた。ちゅっちゅとわざと音をたてて何度かキスをすると、
「ただ、少し灸を据えてやろうと思っただけだ。その……激しく、シてきたから」
さらに頬に赤みを増やしながら、言う。その一言で、シカマルは大方の見当がやっとついた。
そりゃあ、怒るか。
やっと納得したと言わんばかりのシカマルに、テマリはシカダイを見つめている時と同じ穏やかな笑みを浮かべている。怒りなどそこにはない。
申し訳なさを感じつつも、据え膳なんとやらだとシカマルは自分を納得させると、着物の下に隠れているテマリの細腰に片手を這わせて、直にくびれをなぞる。
「あー……。その、すまねぇ。そのことは」
シカマルが言葉を濁して謝ると、ふふっとテマリは笑う。
「お仕置きならもう済んだ。反省してるんだろ?好きにしろ」
ん?今、好きにしていいって言ったか?
なんて思ったが、本当に好きなことをやろうと思えば、時間はいくらあっても足りない。
「まァ、今は、ほどほどで」
そう言うと、ボディラインを確かめように触っていた手を背中に回し、ブラのフックを外した。裏から少し肩紐を引っ張ってやれば、表では豊満で魅力的な乳房が、支えられていたワイヤーからぷるんとこぼれ落ちる。
テマリがシカマルの肩に手を置いて、姿勢よく膝立ちになると体を少しだけ揺らす。すると、ぷるぷると揺れる乳房が目の前にあって。
あー。たまんねぇ。
なんて考えていると、肩をごとぐいと引き寄せられて、谷間へと顔面から飛び込むかたちになった。二の腕だろう、左右からぐっと力がこめられれば、息が苦しくなる。だけど、それも、たまらない。
「時間がないぞ?」
顔の見えないところから行為を急かされる。恥ずかしいからなのか、それとも慣れているからなのか、テマリはまるで任務で指示を出すかのように言った。
謝った時に主導権は、向こうに譲ってしまったも同然だ。言うことを聞くしかない。隊長の仰せのままに……。
シカマルは目の前の湿気た肌に舌を這わせ、谷間に溜まっていたテマリの汗を舐めとっていくと同時に、手で掴んでもまだまだ余るほどの豊胸を両手でやわやわと揉んでいく。
その時、テマリは大抵、子どもをあやすようにシカマルの背中か首筋にかけるラインや頭を撫でてくれる。
これ、これがいいんだ。
自慰では得られない、人肌独特の生温かさ。正直、挿入できなくてもこれが味わえたらそれでいい。テマリの谷間に顔を沈めて、たっぷりと甘やかされたら、それで。
若い頃は尻とか胸など関係ないだろうと思っていた。それらが膨らんでいるか、ささやかな方が良いのかといった同世代の男子たちが真剣に考えていたことに、あまり興味がなかった。しかしある時、テマリの、全てを包んでくれるような優しさの塊に顔を突っ込んでみると、淫らな欲とは別の何かが満たされていっていることに気づいた。柔らかい肉圧が顔を包んでくれる感覚が心地よく、疲れがじわっと抜けていくような。そこに、テマリが優しくシカマルの愛撫してくれるようになってからというものの、この行為に病みつきになっていた。
このままでいたいと思っていても、相手は物ではなく人間で。しかも、久々の抱き合いときている。揉んでいた手のひらで乳房の先端を少しこねてやれば、胸の突起が立ち上がってくるのがはっきりと手のひらでわかる。それを指先できゅと摘めば
「あっ……」
テマリが艶のある声を吐き出した。さらに押し付けるように頭を抱きしめながら。ぎゅうと谷間に挟まれるのはたまらない。テマリの谷間から香る強いベビーパウダーの匂いに脳はとっくに、くらくらしている。が、鼻が潰れてしまってこのままではその匂いを楽しむ余裕がないほど、息ができない。
トントン、とテマリの腕を叩いて力を緩めるように言うと、ぽおっとした顔のテマリは肩に手をおいて少しだけ体を離す。テマリが深く息を吸って吐くたびに乳房も同じく、上下を繰り返す。
ぷるんぷるんと動いている目の前のものにたまらなくなって、固く主張している桃色の突起を口に含むと、ころころと舌で転がした。
「んっ……あっ……ふぅ……」
ぎゅっと肩を掴むテマリの口から漏れだす吐息は、シカマルの背すじを震わせると同時に、下半身に熱が回る。少しとキツくなってきていることはわかっていたが、今はまだテマリを優先させなければならない。
テマリの感じるところなら、わかっている。出産を経てから少し、いやかなり敏感になったそこのことは。
シカマルは口の中にある、シカダイがしゃぶりついていたものを甘噛みすると
「んあっ!」
テマリが一際大きい嬌声をあげる。予想通りというか、経験通りというか。わざと唾液でちゅぱちゅぱと厭らしい音を立てながら、舌先でつんつんと頭をついてやると
「ひゃ……ん……ッ!」
背を仰け反らせながらテマリは反応する。
テマリの声に、下半身により熱がこもるのを感じつつ、シカマルは薄っすら汗ばんでいる内ももに手を這わすと、汗を手のひらで吸い取るようにじっくりと撫でる。付け根まで手を徐々に這い広げさせれば、布で隠されている秘所がじんわりと熱気を帯びているのを、皮膚が嗅ぎとった。
手のひらでその部分を覆ってやると、ぷっくりと膨らんだ豆状のものが当たる。
シカマルは、口から先端を吐き出すと
「パンツ、脱がせていいか?」
わざわざテマリに許可をとる。顔を赤らめたテマリが、こくりと小さく頷くのを確認してから、ショーツのウエスト部分に両手手をかけるとちょっとずつ、下へずらしていく。
言わなくとも、テマリが片足ずつ交互に穴から足を抜いていくその途中で、クラッチ部分から一本の糸が伸びて消えたのをシカマルは見逃さなかった。
濡れているとわかっている蜜壺に、ためらいもなく人差し指を差し込むと、締め付けようとする肉壁をぐにぐにと押し返す。
「んっ!んっ!んっ!」
押す度に、テマリの声帯が震え、ぎゅっと結んでいるであろう唇から吐息が漏れだす。時間がないといえど、テマリの体に負担を与えてはいけない。
上半身をシカマルの頭に預ける形にしてきたテマリは、また胸をシカマルの顔に押し付けることになる。今度はさっき吸わなかった方の桃色の突起を口に含み、下の突起も親指で優しく刺激してやりながら、人差し指でじっくりと壺の中を揉んでやると、揉めば揉むほどゆっくりと柔らかさを帯びてくる。最初の締め付けがゆるくなったのを体感し、シカマルは人差し指を引き抜くことなく、中指もじわじわと沈めていく。
中指も根元まで入ったのを確認すると、それぞれの指をばらばらに動かし、二本の指よりも太いシカマルのモノが入れるように、壁を揉みしだく。
テマリの体から力が抜け、舌で弄んでいた突起がずるりと口から出て行くのを見送ると、膝立ちができなくなってきていることに気づく。テマリの腰はそのまま下がっていき、指先が思ったよりも深いところへ触れた。
「あぁ!」
強い快感が走るところに触れたらしく、大きく体を震わせたテマリを見て、シカマルは頃合いか、と判断すると、指を蜜壷から抜く。
「テマリ、そろそろ挿れるぞ」
そう言うと、テマリは震える腰を持ち上げて、大きく股を開くとシカマルの足を挟みこむ。シカマルはズボンの紐を緩めて、パンツと一緒にずらすと飛び出してきた熱を持った茎を掴むと、先ほどまで指が入っていた壷へ、濡れている先端をあてた。
じっくりと沈めていくはずだった。それなのに。
「ん"!!!」
テマリががくんと一気腰を落としたせいで、シカマルの背筋をビリっと快感が突き抜け、思わず声帯を震わせてしまった。
やばい。すぐに出ちまう。
「ちょ、アンタ」
シカマルが慌てて、静止をしようとするとテマリはぼおっとしながらも、はっきりとした口調で言う。
「あと、20分で家を出なきゃいけないんだろう?」
ベッドサイドに置いてある目覚まし時計を指差して。指の先を見ると、確かにもう時間がない。後片付けのことも考えると、悠長に優しくなんて時間は難しい。かと言って、テマリをこのままにしておくわけにもいかない。
「とりあえず、私のことはいいから」
こっちをどうにかしないとまずい、と言わんばかりにテマリは腹に力をいれて、きゅっと茎を締め上げる。
「は?」
突然の刺激をなんとかやり過ごしたが、次に来るであろう行動に、シカマルは嫌な予感がした。
「任せておけ」
テマリがぐっと膝に力をいれて、シカマルの肩をことに力強く握ると、じゅぶっじゅぶっとはっきりと音が耳に届くぐらい、激しく腰を上下に動かし始める。限界が近い茎には刺激が強すぎ。
いやいや、アンタ!時間がないとはいえ、これはないだろう!
と思いつつも、たっぷんたっぷんと揺れ動く眼前の乳房が見えないぐらい、快感でチカチカと星が飛ぶ。そして、弾けるような感覚がしたあと、突然、すうとシカマルの頭が冷静さを取り戻す。
「あっ。ゴム」
シカマルがつぶやくと、腰の動きを止めたテマリが
「それより、ティッシュだろ」
と一瞬で張りを失ったモノを抜きながら言う。落ちてくるであろう液体のことなど、気にしないとでも言いたげにベットを四つん這いに這って行くと、目覚まし時計の隣に置いてあるティッシュの箱をシカマルに投げつけた。
なんか、いろいろやっちまった。
シカマルが上手く回らない頭であれやこれやを思い出し、後悔の念を抱きながら投げつけられた箱からティッシュを2~3枚抜き取り、元気を失った息子を拭いていると、ぎゅっと背中に二つの柔らかく、熱いものが当たる。
ふぅふぅ、とテマリの息はまだ荒い。なんとか、体の中に溜まった欲を吐き出している、といった感じだ。
「後で母ちゃんに電話するわ」
丁寧に拭き取った息子をパンツとズボンの中にしまい込むと、シカマルは勢い良く立ち上がって、テマリのクローゼットから新しい下着や着物を取り出そうとした。
「え?」
テマリはテマリで、乱れた姿のままでシカマルの新しい衣服をとってくれているようだ。まだ、深呼吸は続けているが。
「今日、シカダイをそっちにやるって」
きちんと日毎にセットされている、新しい着物と帯、それに下着をベットの上に置くと、シカマルは着ていたものを全て脱いでいく。
「は?!」
同じように積まれた新しい衣服に着替えながら、
「アンタにすまねぇし、オレだってまだまだ足りねぇから。じゃあ、そういうことで」
家を出ないといけない時間が迫っているシカマルが、寝室を出ようとすると
「待て待て待て」
テマリが同じ着物の帯を適当に結んででも止める。
「私は明日の朝でもいいんだぞ?」
「オレは今晩がいい。さっきの借り、きっちり返してやっから。ほんとー、今はすまね!」
さらりとシカマルは言うと、出かける準備のために階下へと足を急がせた。
【おまけ】明け方の奈良夫妻
明け方近くに、久しぶりの交わりを楽しんだ後の二人が、それぞれベッドでウトウトしているとおもむろにシカマルが口を開いた。
「アンタが良かったら、もう一人……とか考えてんだけど、どうだ?アンタ似の女の子とかいいなぁって」
雰囲気には似合わない、はっきりとした口調だった。しかし、それを聞かされているテマリは疲れからか眠気が強く、話半分といったところだ。あとすこしで夢の中……という時に、未来の家族計画について、しっかりと熟考した上での返答なんて、できるわけがない。聡い夫のことであるから無計画に言っているとも思えなかったし、もしかしたら無意識の返答の確認したかったのかもしれない。が、あの時に「こうなるだろう」と予感をしてから、テマリは切り札を用意していた。
「うぅん……。ダメだな」
「なんでだ?」
「ウチにはもう、こどもがふたりいるから」
ちいさいのと、おおきいの。
消えゆく声で付け足すと、隣で横たわっていたはずのシカマルが「えっ!」と声をあげて起き上がったが、今はそれどころじゃない。大きなこどもをいっぱい甘やかしてやった後で、テマリはとにかく眠いのだ。
何か言いたげにしている隣の大きなこどもに、じゃあ、おやすみと伝えたような伝えてないような、記憶を曖昧にしながら、テマリはそのまま眠りへと落ちていった。