「ここまでありがとう。じゃあ」
テマリは後ろ手を振って、去ってしまう。
アンタ、道がわかんねーからオレの手を振りほどかなかったんだろ?なのに、ここから帰れんのか?っつーか、アンタが泊まってるとこ知らねーと、明日、迎えに行けねーんだけど?
テマリという名前以外の情報を、彼女からまだ聞かされていない。
「ちょっと待て」
オレがテマリを追いかけようとすると、一瞬、目を焼き付くような光に包まれる。手で光を遮ろうとするが指の隙間から差し込む光はそれでも眩しい。眩しさにぎゅうと目を細めながら凝らすと、光の元は車のようだ。
テマリはその車の後部席で、ドアを開けてくれている顔を半分隠した屈強な男の元へ行っておりとその男と二言三言言葉を交わす。その後に
「Gracias」
オレにそう告げると、さっさと車の中に乗り込む。そして、それ以上の接触を拒むように、ドアを閉じた。