※本文は全年齢向けなのですが、元の家具ペットがR18Gなのでそれにならっています。
続きを書く気はなかったのですが、素敵なイラストをこっそりいただいたので、それに文章をつける形で書かせていただいたものです。
シカマルとテマリの住むマンションの近くはいつも、賑わっている。
シカマルが住み始めた当初、巨大な公園だけがぽつんとあった時はそれほどだったのだが公園にショッピングモールが隣接されてから、事情が変わった。
新しい施設は、家族連れやカップルが出かけるのに向いている場所として有名になり、昼夜問わず人が集まる場所となった。しかし、シカマルはもっぱら食料品を買いに行く程度にしか利用していなかった。
別にネットスーパーを利用しても良かった。けれど外に出る口実が欲しくて、生鮮食品はわざとそこで買うようにしていた。
一通りの買い物を終え、重いビニール袋を下げたシカマルが人の間を縫って、帰路につこうとしていると、穏やかな雰囲気に合わない、煌びやかな店舗が目についた。
大方、女性用下着の店舗でもできたのだろう、と素通りしようとした。彼女と別れた男のシカマルには関係のないことであるし、今はそれよりも買ったばかりの特売の卵を冷蔵庫に仕舞わなければならないミッションがあったからだ。
けれどその店先に出されていたポスターに、デカデカと書かれていた文字が急ごうとするシカマルの足を止めた。
『家具ペットにも、かわいいを』
そんな時代が来たのか、なんて思っていると、明らかに独り身であろう男や女がその店に吸い込まれていく。
自分と似たような人たちが大勢いることに、シカマルは嫌悪感を隠せなかったが、家で待つテマリのことを思い出すとその大勢のうちに自分も入るしかない。
この前シカマルが買ったカバーは、テマリから見ればハズレの商品だったらしい。肌触りがどうとか、飾りがしょぼいだとか散々な言われようであった。
「せっかく買ってやったのに、ワガママ言うな」
そう言って叱ってから、テマリはシカマルが何度名前を呼んでも無視するようになった。無理やり抱き上げてベッドまで連れて行けばそれでいいのだが、毎回運ぶのもめんどうである。手足がないと言っても、テマリが痩せていると言っても、重いものは重い。
ここはご機嫌とりに何か買っていくのが、吉だ。
シカマルが、店頭のショーケースの中に並んでいた色とりどりの商品を眺めていると甲高い女の声が間に割って入ってきた。
「いらっしゃいませ、家具ペット用のカバーをお探しですか?」
シカマルが声のする方に首を傾けると、まつ毛をびっしりと生やした女がそこにいた。
「あー……見てるだけなんで」
見たことないような色で目の周りを塗っている女が選んだカバーを、テマリが気にいるはずがない。
シカマルがその場から退散しようとすると
「最近の流行りだけでもどうです? アクセサリーなんかも流行ってるんですよ」
オンナはシカマルを呼び止める。
「ご自宅の家具ペットちゃんは、きれい系ですか? かわいい系ですか?」
この女が、シカマルに物を売りつけようとしているのは、明白だった。ロクでもないものを掴まされるかもしれないとも思ったが、最近痛むようになった腰は「諦めろ」と言う。
シカマルが渋々
「……きれい系?」
と女の質問に答えると、女はにっこりと笑って
「じゃあこちらのラインなんかオススメですね」
シカマルの腕を引っ張り、店の奥へと連れ込んでいった。
◇
結局、買わされたカバーは、いつもシカマルがテマリに買うものと桁が一つ違うものだった。
食費何日分になるんだろうなァ。
特売ばかりのビニール袋の中身を見てぼんやりとそんなことを考えながら、財布から抜き出したクレジットカードを女に手渡すと「一括払いで」の言葉も添える。出された伝票にサインを書き込んで、綺麗にラッピングされた小袋を受け取るとそれで買い物は終了なのだが、シカマルの気は重たかった。
値段はできもしない新作のゲームを一本諦めるだけで済むが、新しく買ったカバーは付けるのがめんどうなタイプのものだ。
イミテーションの赤いダイヤがポイントのゴールドアクセサリーをつけて、それからカバーで先端を包み縛ってやる。
それを手足の数と同じだけ行わなければならない。
手間を考えるだけでも大変だったが、それでも「買います」と言ったのはテマリが喜ぶ姿を見たかったからであった。
気に入ってくれるといいんだけど。
シカマルは太ももを高く上げると、自宅への道を急いだ。