「しっかりしな!」
そう言われて頬をひっぱたかれた時に、オレは身が引き締まる思いがした。うじうじと悩んでいても仕方がない、お前はどうしたいんだと言葉以上に詰まった平手は何よりも効いた。けれど、息子はそうは思わないらしい。
頬に紅葉を作ったシカダイは
「母ちゃん、手加減っつーもん覚えねーんだから……」
ぶつぶつと文句をこぼす。夜風の吹く縁側ではじんじんと痛んで仕方がないだろうに、それでもオレに抗議をするために。
「……今日はよーく冷やして寝るんだな。じゃねーと明日、ボルトに笑われるぞ」
経験談を踏まえてアドバイスしてやると
「とうちゃん、あんなこえー女とよく結婚したな。脅されたのか?」
可愛くない返事がかえってくる。そんなところは誰に似たのか?
「脅されちゃいねーよ。」
それだけを否定すると、なんと答えようか頭を巡らせる。
結婚しようと思ったのは、痛む左頬を冷やしている時だったなんてシカダイに言えやしない。だけど平手一発で世界を変えられる女なんて、あの人ぐれーなもんだから。