「テマリ、オレの手袋どこいった?」
私が、シンクの中に積み上げた食器を洗っていると、可愛くない髭面の男の顔がひょっこりと顔をのぞかせる。
「昨日、靴箱の上に置いてたじゃないか」
「えっ、そうだっけか?」
慌てて出ていく広い背中。それを追いかけるために私は水道の蛇口をひねると、つけていたエプロンで手の水を拭き取った。
どうやらウチの旦那様の出勤時間のようだ。
「マジだ。なんでこんなとこにあんだ?」
「知らないよ。ところで、時間は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。じゃあ、いってくる」
そう言うとシカマルは革製の手袋を、薬指に嵌めた金の指輪を覆い隠してしまう。
「いってくる」
「あぁ、今日も気張ってきな」
いつもどおりの挨拶を交わして、私はアイツを見送った。
シカマルが手袋をつけ始めた理由は些細なものだ。
「結婚指輪に傷をつけたくないから」
そんな乙女みたいな理由だ。